まみ めも

つむじまがりといわれます

ベランダ園芸で考えたこと

今年の夏休みは毎日ビールを飲んで、スーパーと図書館とバーガーキング以外はどこにも出かけず、雨と雷と暑さがすごかった。あしたから仕事という日曜は、餃子を包んで焼いた。

月曜は朝早く起きて、流水麺に甘く煮ておいた油揚げをのっけた弁当をふたつ冷蔵庫につっこんでおく。自分用に、人参とドライマンゴーのラペをはさんだサンドイッチを作り、氷とコーヒーと牛乳を水筒にたっぷり詰めて、それから朝ごはんを用意する。こどもたちを起こして、咳のとまらぬげんちゃんには水薬を飲ませ、熱をはかり、保育園の連絡帳を書く。家を出て、早足で駅にむかい、汗だくで電車に乗ったらほんのすこしほっとして、クーラーのきいた車内で本をぺらぺら読む。通勤の靴が足に合わなくて爪先が痛む。生活をしているという張り合いだけはたっぷりある。お迎えにいったときにげんちゃんが「おちゃあちゃん」といってトップスピードのはいはいで寄ってきたときを思い出しては胸のときめきを何度も反芻している。

ベランダ園芸で考えたこと (ちくま文庫)

ベランダ園芸で考えたこと (ちくま文庫)

 

ト。

愛情の暴走、コンパニオンプランツ、芽が出る喜び、残酷な間引き…。震災を経て、結婚をして、ベランダに引きこもった著者が、生と死を見つめた日々をイラストと共に綴る。

ラプンツェルのように
ベランダの可能性を引き出す
去年に起きた、愛情の暴走
時間を超える種
コンパニオンプランツとは
芽が出る喜び
薔薇
残酷な間引き
食料にする
旅欲が私を突き動かす
緑のカーテン
ゴミから伸びるもの
奇形を愛でる
台風の日に生まれた
「借景」について
キノコの季節
冬の生活
さようなら、私のベランダ

わかる、わかるよ、ナオコーラ。庭先でものが育つ日々のよろこびにふるふるする。人間の生死とは異なるしなやかさで死んで生きていく植物たち。

スイカの丸かじり

七月の中ごろに仕込んだしそのジュースを、炭酸や水で割って大切に飲んでいたら、そのうち自然発酵して微々発泡になった。コップに氷をいれて、しそジュースと安物の赤ワインを半々で注ぐ。鮮やかな赤と深い赤がきれい。混ぜないで味をグラデーションにして飲む。底のほうはしそジュースが濃くて喉もとにささやかにシュワシュワするのが秘密のようでうれしい。鍋にたっぷりできたときは仕込みすぎたと思ったけれど、盛夏のはしりに飲み切ってしまった。

木曜の朝、げんちゃんのおでこがじんわりと熱くて、あわててクリニックに連れていく。昼過ぎまで39度近くあったけれど、夕暮れとともに憑き物がおちたように熱も下がり、機嫌もよくなった。夜は、予定していた焼肉パーティーをやることに。コンビニでビールを買ってきてもらい、こどもたちはサイダーで、乾杯をした。ひと缶めのビールを幻のスピードで飲み干した。

ト。

食べ物と食べる人へのスルドい観察をまとめたエッセイ集第12弾。全身おかず人間、立ち喰いレバーフライ、目刺し定食などに新挑戦

イカのフランス料理
フラメンコの夜
おかず横丁」で買いだおれ
おかず横丁」で買いだおれ そのⅡ
郷愁のアベカワ餅
駅弁王?「峠の釜めし
ガンバレ中華丼
海苔の一膳
目刺しの出生
望郷のニシンそば
地ビール元年
スーパーの恥ずかしもの
懐かしき味噌おにぎり
ステーキのくやしさ
レバーフライの真実
あんかけ蕎麦再発見
男も料理はするけれど
その人の流儀
その人の流儀 そのⅡ
魅惑のコリアン市場
最近居酒屋チェーン事情
徳利を振る人
寿司の新顔「パック寿司」
「いし辰丼」の迷い
ついでの味
逃げるワンタン
ギョーザバーガー出現す
肴の頭カレーを食す
スポーツバーにて
肉じゃがは正悟師か
大阪「自由軒」のカレー
平成のすいとん
ソース二度づけ厳禁の店
うな重と生ビールの午後
灼熱の鍋焼きうどん

2001年5月10日 第一刷

解説 荒川 洋治

どんなものを食べてもとことん楽しみ楽しませてくれる東海林さだおにどこまでもついていく。

いつのまにやら本の虫

金曜の夜にルバーブが届いた。鎌倉の市場にあったら送ってくれるように頼んでおいたもの。「毎日、お疲れ様です!」と毛筆の広告が載った新聞紙に包まれて、GODIVAの赤いリボンで結えられている。土曜は仕事をしながらルバーブのことを考えてにやにやした。日曜の朝、ルバーブを刻んで、たっぷりの砂糖をまぶしておき、しばらく馴染ませてから煮た。鍋にいっぱいのルバーブを二回。全部で二キロあった。あんなに太くてかたいルバーブのくせに、煮たらあっというまにぐずぐずのとろとろになってしまう。簡単に形をなくしてしまうところまでいとしい。ギャップ萌えとはこういうことか。まだあったかいのをすくって舐めて、すっぱくて甘くてたまらない気持ちになる。三つのガラス瓶にたっぷり詰めた。

いつのまにやら本の虫

いつのまにやら本の虫

 

ト。

三島由紀夫水木しげるつげ義春楳図かずおの漫画を読んでいた!? 24歳で亡くなった立原道雄の蔵書は2000万円!? 話題満載、本のむし出久根達郎の最新書物エッセイ172編。

本が好きな人が書いた本が好き。

ブスの自信の持ち方

週末からずっといやな咳をしていたげんちゃんが、水曜の夜中にひどく咳き込んで、胃の中のものをあらかたシーツに戻してしまった。目を覚まして眠そうにキョトンとしていたけれど、シーツを全部はがして着替えさせて、つぎの朝、念のため病院に連れていく。そのまま会社は休み。風邪だろうとのこと。夏休みのせいちゃんとふくちゃんは用意してあった海苔弁、こちらは白うりのサンドイッチでお昼にする。白うりは塩を振ってとことん水気をしぼったのにぽりぽりしていて侮れない。そのまま熱も出ないので次の日は会社に出て、今週は土曜も仕事。とけかけのバニラアイスみたいにへばった犬みたいになっている。

とけかけのバニラアイスと思ったら夢中でへばっている犬だった/岡野大嗣

二か月ほど前、遊歩道の枇杷の木から実をもいで食べたあとに残った種を、バジルの苗を植えた琺瑯の容器になんとなく埋めてみたら、忘れかけた今になって芽が出た。ぽやぽやとうぶ毛のある芽が立ち上がっている。種から育てた木にいつか果実が実るかもと想像するだけで胸がときめく。

ブスの自信の持ち方

ブスの自信の持ち方

 

ト。

容姿によって生きづらさが生じるのは、本人の問題ではなく、社会の問題だ。「ブス」をきっかけに、差別とは、性別とは、理想の社会とは、を考える。『よみもの.com』連載に加筆修正して書籍化。

自分の顔を好きでも嫌いでもなく、とにかく興味がもてなくて、いまだに写真にうつる顔をみるとこれが自分なのかと戸惑ってしまう。人の顔をなかなか覚えられないので、世の中の顔全体にひとしく興味をもてないのだと思う。顔とか性別とか、いろんなものが自分が思うより自分についてまわり、鬱陶しいけれど、それが世界なので、やっていくしかない。

キッチン

長梅雨と同時にコロナ禍で長引いていた育児休業が明けた。仕事がはじまる前にとこまごまと用事を済ませて、先週は忙しかった。休みの最終日は、せいちゃんとふくちゃん、お友だちを誘って回転ずしにいき、昼からビールを飲んでやった。わさびなすを頼んでお父さんのことを思い出す。

仕事にいく服を考えることが急に面倒になり、ユニクロとGUで、白いTシャツ1000円、黒いパンツ590円、黒い靴1690円をそれぞれふたつずつ買い求め、毎日おなじ格好で出かけることにした。考えることがひとつ減っただけで気持ちが楽になった。初日はパソコンにログインするのに一時間を費やし、のこりはずっと方々へのご挨拶とメールを読んで終わった。昼休み、ごはんのあとに本を読む時間がうれしい。夏休みになって家で留守番をしているせいちゃんとふくちゃんからメッセージが届く。おひるごはんを食べたかたずねたら、「とおつてもおいしかつたよ」「か゛ちでだよ」の返事。パソコンのかな入力がつたない。か゛ちでおいしかつたのは、流水麺のうどん。

キッチン

キッチン

 

ト。

祖母が死んで一人ぼっちになったみかげは、田辺家に同居する。田辺家には大学生の雄一と、その母がいた。母は実は女装した父親であった。もとの部屋を整理する孤独なみかげを、雄一親子の優しさが包む。ほかに2編。

キッチン

満月

ムーンライト・シャドウ

電化製品列伝(吉本ばなな「キッチン」のジューサー)を読んだら懐かしくなって、22年ぶりに読む。22年ぶりと細かく覚えているのは、大学の教養課程の第二外国語で「キッチン」のドイツ語訳を日本語に訳すという逆輸入の授業をやったからで、当時は文章の体裁がめちゃくちゃなばなな節に振り回されてしまった。いまになって読むととんでもなさを素直に読めるのがおもしろい。吉本ばななの文章にはどこかしらセラピーのようなところがあって、読んでいるとしらずしらずのうちに上がっていた生活のペースをなだめてくれる。

ここに消えない会話がある

育児休業という名の休まらない休みがついに終わる。これからは相対的にさらに休まらない日々がはじまるということ。慣らし保育も残りいく日でげんちゃんの慣らし保育がやっと午後までのびたので、ふみちゃんに一日のサービスデーをプレゼントすることにした。朝、霧雨の中をさいたま新都心まで出て、ビルのパン屋でモーニングをとり、flying tigerを物色してからシネコンで映画。ジブリを却下されてコンフィデンスマンJP。劇場内は前後左右の席にテープが貼られていて、マスク着用。ふたりでココアを啜りながら。斜め前のふみちゃんの席に身をのりだして、不安なシーンで手をにぎったり、ずれたクッションをなおしたり、トイレに付き添ったり。賑やかな映画だったので、内容はわからなくとも楽しかったらしい。おもしろかった?とたずねると、めっちゃおもしろい、と返ってきた。マックにはいって、エッグチーズバーガーとフィレオフィッシュのセット。それからH&Mにいって、カチューシャ三本とドレスとサンダルを買った。歩き疲れてお迎えに一分おくれて帰宅。

ここに消えない会話がある

ここに消えない会話がある

 

ト。

25歳の派遣社員、地味系男子の広田は半ば諦めの境地で生きている。しかし、会社で同僚と交わす会話が楽しくて世の中を嫌いになれず…。些細なやりとりのかけがえのなさを描く作品集。『すばる』ほか掲載を単行本化。

ここに消えない会話がある p5-110

ああ、懐かしの肌色クレヨン p111-139

「人間が消えても 宇宙の重さは変わらない

登場人物が死んでも 会話は残る」

宇宙の重さは変わらないけど、だれかの気持ちが軽くなるような泡のような会話を重んじたい。

十二月の十日

雨と体調不良で冴えない連休だった。梅雨は明けないし、オリンピックは開幕しないし、こどもたちは咳と鼻水が止まらないし、げんちゃんは保育園にならされないし、洗濯物は生乾き。まあでもいつだってこんなもんだった。週明けの朝、せいちゃんはだるくてごはんを食べられず学校を休んだ。冷房のきいた部屋でソファに寝そべって本をぺらぺら読んでいる。いまはハリー・ポッターを。かれこれ二週間ほどくすぶっているうちにすっかりやせ細ってしまった。ふたりでお昼にそばを啜る。もうすぐ仕事に戻らなければならない焦りがじりじりと迫る。

十二月の十日

十二月の十日

 

 ト。

愛する長女のために素敵な誕生パーティを開こうと格闘する父親、人間モルモットとして薬を投与される若者たち、暴力の衝動を膨れ上がらせる若き元軍人…。ダメ人間たちが下降のはてに意外な気高さに輝く姿を描き出した短篇集。

ビクトリー・ラン p5-31 

棒きれ p33-35 

子犬 p37-51 

スパイダーヘッドからの逃走 p53-94 

訓告 p95-102 

アル・ルーステン p103-121 

センプリカ・ガール日記 p123-190 

ホーム p191-228 

わが騎士道、轟沈せり p229-241 

十二月の十日 p243-283 

ここにもなかなか冴えない人たちがなかなか冴えない日々を過ごしている。笑って、笑いながら泣いてしまう。笑っているのも笑われているのも、自分だという気がする。