まみ めも

つむじまがりといわれます

なんで僕に聞くんだろう。

忘れたころに一撃。小さな器に最後の一滴だったかもしれない。精神的にタフにできていてよかった。

知人の話をまた聞きしたなかに、病気の子にうどんを鍋から食べさせていたときに「椀によそわないの?」と注意したことくらいしか思い当たるフシがないというのがあり、それが決壊の最後の一滴だったんだろうというのは非常にいい例だと思う。今回の一滴はゲリラ豪雨並みで一気に決壊。IKEAのメールが何を察したのか「ときにはうまくいかないこともあるものです」と慰めてくれた。ときには?どちらかというとときにはうまくいくこともあるほうの人生です。

ト。


「クリエイターと読者をつなぐサイトcakesで、2019年にもっとも読まれた連載」「1000万人が読んだ人気連載」が待望の書籍化!「cakesで歴代ナンバー1のPVを獲得した記事」も収録。

「家庭のある人の子どもを産みたい」「親の期待とは違う道を歩きたい」「いじめを苦に死にたがる娘の力になりたい」「ガンになった父になんて声をかけたらいかわからない」「自殺したい」「虐待してしまう」「末期がんになった」「お金を使うことに罪悪感がある」「どうして勉強しないといけないの?」「風俗嬢に恋をした」「息子が不登校になった」「毒親に育てられた」「人から妬まれる」「売春がやめられない」「精神疾患がバレるのが怖い」「兄を殺した犯人を、できるならば殺してやりたい」……
なぜ彼らは、誰にも相談できない悩みを、余命数年の写真家に打ち明けるのか?
人生相談を通して「幡野さん」から届く言葉は、今を生きるすべての人に刺さる”いのちのメッセージ”だ。

やっぱりうまくいくことのほうが少ない世の中だと思う。

さまざまな迷路

ミニトマトとブルーベリーを三粒ずつ収穫した。ブルーベリーはもともとあった一本に、出産の記念樹に二本もらって植えてあるうちの一本に花がつかず勢いがないので大きめの鉢に植え替えた。どうやら地植えにしていたところにはなにかの根っこがはびこっているらしく、土から掘り起こしたら全然根が伸びていなかった。植え替えたあとの鉢にたっぷりと水をやる。蚊にあちこち刺されてしまった。

きょうが夏至。一年で一番遅い夕暮れは29日にやってくる。

古い新潮社の新書サイズ版が古本屋の店先に何冊か並んでいて、百円で買い求めたうちの一冊。

全快
町人たち
使者
重要な任務
森の家
ことのおこり
再現
しあわせな王女
ホンを求めて

因果
小鬼
過渡期の混乱
しあわせなやつ

目撃者
コーポレーション・ランド
判定
末路
ベターハーフ
小さな記事
みつけたもの
出口
名画の価値
三段式
かたきうち

すてきなかたねえ
一軒の家
買収に応じます
発火点
やつら

星新一の本を買ったときには帰ってせいちゃんに渡すと黙々とものすごいスピードで読む。なにもかも放り出して本を読んでいる。話しかけても返事はない。もともと文庫版が本棚にあったけれど、新書サイズ版の二度目もたのしんだらしい。

これでもいいのだ

いつからか宣言しなくなった梅雨入りは「したとみられる」のぼかしが効いてジャパニーズ仕様。あじさい、セピアになってきた。駅前の八百屋に並んでいたいちごは6月8日のとちおとめが最後。庭先の植え込みのトマトの苗がぐんぐんのびて、一番下の実があかくなってきている。窓の張り出しにぶつかって傾いでいて、肩こりしそうな姿勢が気の毒だ。来年はもっと広々と植えてやろう。

ト。

選択的おひとり様マザー、自営業者の孤独…。思ってた未来とは違うけど、これはこれでいい感じ-。疲れた心にじんわりしみるエッセイ全66篇を収録する。『婦人公論』『日本経済新聞』連載を加筆し書籍化。


第1章 女友達は、唯一の元本割れしない財産である
プレミアム豚の夜/「小ライスは私です」/店選びは茨の道/バブルパワーにあやかりたい/「冴えない女の会」/「女子アナ」が勝利するとき/ゴッドマザーを頼まれて/戦争とのそれぞれの接点/江戸切子熱中症/離婚と親権/選択的おひとり様マザー/女に生まれて良かった/現実のファム・ファタル

第2章 中年女たちよ、人生の舵をとれ

私の私による私のためのオバさん宣言/自営業者の孤独/八年ぶりの長期休暇/私の種は芽吹かない?/「なにもしない贅沢」にソワソワ/私だってモデルサイズ/我が家の「賢者の贈り物」/観光ベタは惑う/フランスと日本。生きやすいのは?/化粧と通勤電車/「ごめんなさい」とベビーカー/「伝える」の先にあるもの/ハラスメントと権力/オール・フリー・チューズデー/ありもの恨み/コンプレックスと欲のバランス/ムズムズまでの距離/それぞれの背景/〝現役〟のアップデート/生きる糧の更新

第3章 世の中には物語があふれている

エンターテインメントは命の糧/初々しい、男たちのダイエット/健康にはお金がかかる/誰にも邪魔できない聖域/ダイエットのモチベーション/再結成したバンドに思うこと/スタンプカードの罪/ポップミュージックの存在意義/店頭の旬と欲望の旬/ぐるぐる回るあの渦が恋しい/壮大な寄り道/あれ取ってここでそれやって!/節約と贅沢と無駄遣い/ゾンビとピーナッツ/セールスマンのこだわり/「性格が良い」とはどういうことか/秘すれば花/ベストな手帳が来年を決める/もの悲しさの種/父の健康法

第4章 大人だって傷付いている

空腹のかたち/「一生モノ」とは言うけれど/パツンパツンの喪服で/四十代にちょうどいいパンツ/ああ、年中行事/「大丈夫だよ」と言ってほしかった/ドラッグストアでの大人買い/脳のメモリとスマートフォン/手強すぎる門番/値の張る財布が買えない件/勉強しておけば良かった/生きてさえいれば/甘い憂鬱

おわりに

小学五年生のせいちゃんも拾い読みしておもしろいと言っていた。冴えない中年女のいとしさよ。

 

たべるのがおそい vol.1

しばらく前にげんちゃんにめがねをぐねられて、歪んだ視界のままごまかしていたけれど、やっとめがね屋に行くことができた。めがねをはずして度なしのめがねを試着すると自分の顔が見えないくらいに視力がないので、家族に選んでもらう。丸いめがねと四角いめがね。どちらも度入りにしたとたんびん底になってしまう。割増料金を最大限に詰め込んだ最薄のレンズなのにかなりぶ厚い。いつまでたっても自分に似合うものがぴんと来ない。

ト。

編集 西崎憲
装幀・装画 片岡好

小説と翻訳と短歌を中心にした文学ムック
「たべるのがおそい」はじまります

わたしたちは誰もが重力というものに支配されています。

「たべるのがおそい」は、その重力を少し弱めてみたいと思っています。

読んでいるあいだ、少し動きやすく、歩きやすい、

それがこの一風変わったタイトルの文学誌の目標です。

西崎憲
 
 
2016年4月中旬全国書店にて発売。
執筆陣

巻頭エッセイ
「文と場所/夢の中の町」 穂村 弘 

創作
「あひる」 今村 夏子 
「バベル・タワー」 円城 塔 
「日本のランチあるいは田舎の魔女」 西崎 憲 
「静かな夜」 藤野 可織 

翻訳
「再開」 ケリー・ルース 岸本 佐知子訳 
コーリング・ユー」 イ・シンジョ 和田 景子訳 

短歌
「はばたく、まばたく」 大森 静佳
「桃カルピスと砂肝」 木下 龍也
「ひきのばされた時間の将棋」 堂園 昌彦
「ルカ」 服部 真里子
「東京に素直」 平岡 直子

特集〈本がなければ生きていけない〉
「虚構こそ、わが人生」 日下 三蔵
Dead or alive?」 佐藤 弓生
「楽園」 瀧井 朝世
「ただ本がない生活は想像のむこう側にも思い浮かばず」 米光 一成

あひるを読むのは三回目だと思うけれど、きれいさっぱり忘れている自分がいっそ清々しい。

B級グルメで世界一周

遊歩道にいろんな色と形のあじさいが咲いていて、目を楽しませてくれる。小さいのが集まって花になり、その花がまた集まってかたまりになっている。梅雨入りを前にすこし茶色い花びらが混じってきた。雨が降ると色が鮮やかになる。毎年、いい傘を買いたいと思って調べつつ、壊れかけの折り畳み傘(貰いもの)とビニ傘でやり過ごしてしまい、丁寧な暮らしにはなかなか辿り着けない。壊れかけの傘、なかなかしぶといところに変な愛着がわきはじめている。

鮪のたたきと刺身で山かけ丼を食べながら死んだお魚のおすし、と心の中でつぶやく。

ト。

世界のB級グルメを求めてアタコン(頭が混乱)、メチバ(目が血走る)、テフル(手が震える)で食べ歩く。小籠包の謎に挑み、チーズフォンデュを見直し、英国式紅茶体験にテレ、ホットドッグを叱りつけ、シュラスコに恋をする。それでも醤油一滴の味に焦がれるのがショージ流?!長期連載「あれも食いたいこれも食いたい」シリーズより48篇をえりぬき。アジアとオセアニア(ヒーハの究極 皿の上でタコくねる ほか)
アフリカ(ワニを食べる ロバさんの国のエチオピア料理 ほか)
ヨーロッパ(雪の降る夜の“ロシア”  バウムクーヘン穴疑惑 ほか)
アメリカとラテンアメリカ(問題児ホットドッグ オイスターバー見参 ほか)

解説は久住昌之。「ホットドッグは立体のおいしさである」とか、名言が散りばめられている。

物語のものがたり

土曜日でげんちゃんは二歳になった。好物がなんなのかよくわからないので、チキンカレーを煮てナンを焼く。ケーキはキャラメルクリームにバナナを混ぜたビスケットケーキ。ビスケットを三枚ならべて、真ん中のビスケットにいちごジャムを塗り、チョコレートで眉毛と目と口を描いてアンパンマンの顔にした。プレゼントはメロディおさんぽアンパンマン。おもちゃ売り場に連れて行ったら興奮してしまい選ぶどころではなかったので適当なやつを選んで買った。カレーのあとでケーキにろうそくを立ててハッピーバースデーをみんなで歌い、お誕生日プレゼントを渡した。なんさいになったの?ときくと、にさい!!と元気よく答える。二歳がなんのことかはわかっていないだろう。後ろ髪だけがのびていよいよ「おねい」している。

ト。

秘密の花園」「赤毛のアン」など児童文学の名作を読み解き、いぬいとみこ石井桃子ら先人たちの仕事の核心に迫る。物語の名手による初の児童文学エッセイ集。鶴見俊輔別役実との座談会も収録。

座談会の鶴見俊輔別役実も鬼籍に入り、のこった梨木香歩が「人は亡くなっても気配はなくならない」と述懐している。西の魔女が死んだ、はそういうお話だった。いろんな人が亡くなり、立ち込める気配に包まれる。

イナバさん!

木曜日、ふーちゃんの遠足の日はねらったように一日だけ本降りの雨になった。それでも五時前に起き出してお弁当をこさえる。

ふーちゃんが書いたお品書きは

おにぎり そうせじ ぶろこり みみと

 きやごまた すうそ♡くべゆき とま

だった。魚肉ソーセージの飾りきりに挑戦したのだけれど、簡単そうだと思って選んだ薔薇の花は、まずピーラーで薄くむくというところでつまずいたので早々にあきらめ、輪切りにした片方を六つに割り、真ん中にコーンを詰めるお花というのを作った。弁当箱の位置を変えるたびにコーンが飛び出してくるので、出る杭ではないが出るコーンは押し込まれるのだった。ふーちゃんは六時前に起き出してそわそわしていたが、お弁当をからっぽにして帰ってきた。

ふくちゃんのお誕生日プレゼントにもらった二冊のうちの一冊を借りて読む。

『イナバさんは、忘れ物が多い』通勤電車での帰り道、ついつい寝こんでしまうイナバさん。とうぜん、電車に置き忘れた物も多くて…。『夜のカフェテラス』絵画展のチケットをもらったイナバさん、ふつう程度に芸術に興味はありますが、人混みは苦手で…。『イナバさん、影を追いかける』イナバさんの影が逃げだしたので、さあたいへん。追いかけて乗りこんだ電車はみょうな電車でした。ゆかいで、だきしめたくなる白ウサギファンタジー

ちょっと間の抜けたイナバさんがいい。丁寧な描写で異世界の扉をひらくところが、安房直子の作品と少し似ている。