まみ めも

つむじまがりといわれます

サラダ記念日

またひとつ歳をくった。誕生日は、歩いてケーキ屋にいき、苺のショートケーキをふたつ、チョコレートケーキをひとつ、買ってもらった。夕飯のあとで、三角のショートケーキにろうそくを三本ともし、ハッピーバースデーを歌い終わるや否やフーとやろうとするセイちゃんを寸止めし、一緒に息を吹きかけて消した。おかーちゃんおたんじょうびおめでとうって一緒に言おう、と宿六が言い、おかーちゃん、と言ったところで、セイちゃんが、「じぶんで」と手で制して、一生懸命、おかーちゃん、おたんじょーび、おめでとう、と言ってくれた。ケーキはやわらかく、口にいれるとスースー溶けてしまい、幻のようだった。幻でなかった証拠に苺のへたがふたつ残った。こどもが寝たあとで、発泡ワインのちいさな瓶で乾杯をした。

サラダ記念日―俵万智歌集

サラダ記念日―俵万智歌集

平日はひとりでこどもふたりを風呂にいれるので、ちっとも余裕がないが、週末は宿六がいるので、ひとりで先に湯に浸かり、十分だけと決めて本をひらく。そんな時限の風呂読みに俵万智をえらぶ。ブックオフで105円。24歳の「万智ちゃん」がギュギュッと詰まっている。24歳をとっくに過ぎてしまった中年既婚の平凡な母親は万智ちゃんの恋のゆくえが危なっかしくて心配になる。
また電話しろよと言って受話器置く君に今すぐ電話をしたい
気がつけば君の好める花模様ばかり手にしている試着室
「また電話しろよ」「待ってろ」いつもいつも命令形で愛を言う君
「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの
「30で俺は死ぬよ」と言う君とそれなら我もそれまで生きん
命令形に花模様、どうやらドメスティックなにおいがしてわたしは好かん。電話しろよなんて言われたら、おまえがしてこいと返してしまうだろう。花模様やポニーテールが好きな男も勘弁してほしい。もちろん花模様なんて箪笥に一着も入っていない。逆に宿六に花模様のチロリアンテープの縫い取ってあるカーディガンを贈ったことがあるぐらい。30でに至っては理解不能すぎて聞かなかったことにしたいレベル。
君の髪梳かしたブラシ使うとき香る男のにおい楽しも
君を待つ朝なり四時と五時半と六時に目覚まし時計確かむ
上り下りのエスカレーターすれ違う一瞬君に会えてよかった
しかし万智ちゃんとこの男、ぴたっとピースが嵌まっている感じがする。端で見ていたら、アーアって言いたくなる恋愛。このありふれた呆れた恋愛が、短歌のリズムで躍動して、おそろしくフレッシュな仕上がりになっている。俵万智は、ずっと恋しつづけられる才能のひとだ。わたしは逆上せるのは風呂のなかだけにしておこう。