まみ めも

つむじまがりといわれます

木精

週末は家族がそろい、能登をぐるっとまわってきた。朝の十時まえに家を出て、金沢から能登有料道路にのり、千里浜をドライブ、見附島をみて、宿には四時についた。能登は三月の終わりというのに道のはじっこに雪の塊がうずくまっていて、千里浜で車をおりてみたが、風のつめたさにすぐに車にひっこんだ。民宿は八畳ふた間つづきの部屋で、親戚の家にきたような気安さが子連れにはありがたい。風呂場は洗い場のふたつあるちいさなもので、鉱石をつかった湯であるとかそんな話だった。あいているときに鍵をかけて家族でおはいりくださいというので、早々に済ませてしまった。おとなふたり子どもふたりでいっぱいになるような浴槽が、なんだかちょうどよいのだった。浴衣をひっかけて部屋にもどると、もう夕飯の膳の用意が始まっていて、刺身に能登牛の炭焼き、ほかにも海藻をつかったたくさんのお菜がならんだ。アルコールフリーのビールで乾杯し、あちこちはいずり回るこどもたちを牽制しながらたいらげた。お菜につられてごはんもすすみ、お櫃をからにした。夕飯のあと、隣の座敷にのべられた蒲団のうえで相撲をとりあった。セイちゃんを抱えてぶんまわし、くすぐりあって笑いころげ、浴衣が散々に乱れた。夜はうえの階に泊まっている学生らしい男女の宴会が深更まで賑やかだった。翌日は奥能登ゆきどまりと書いてある突端の狼煙の灯台にのぼり、海にむかっておーいおーいと大声をだした。揚げ浜塩田、滝、窓岩、千枚田、輪島、それからまた千里浜をはしって帰った。ふえた荷物は、見附島でひろった巻貝のからがふたつと、まつぼっくりがふたつ、宿を出るときに持たせてもらったヤクルトが三本、わたしのぜい肉が一キログラム。

木精―或る青年期と追想の物語 (新潮文庫)

木精―或る青年期と追想の物語 (新潮文庫)

吉行淳之介の対談本で、躁病期の北杜夫が、ちょっと人前にだしてはいけないような陽気さで、不謹慎にもおもしろかったので図書館で自伝的というやつを予約してみた。そして信じられないぐらいに暗いので驚いた。同一人物と思われない。こんだけ気持ちが浮き沈みするんだから、躁鬱病ってこたえるだろうなあ。主人公が思いをかける人妻ノッ子のことばがおもしろいので、いつか使ってみたいとおもう。
「あなたの手紙を小さく畳んでブラジャーの中に入れて買物に行きました」
私の差上げたセーターで、貴方を縛っておきたいの。
いま、わたしに手紙をくだされば、ユニクロの、くたくたのブラトップにしまってさしあげます。色はもちろんベージュ、涙ではなく母乳のしみもおつけします。