きょうでセイちゃんは三歳。鎌倉から義父母が遊びにきてくれた。セイちゃんの好物の焼鳥でお昼をし、不二家のアンパンマンのケーキに蝋燭を三本たててお祝いをした。夜は「はやゆう」で、六時に伊勢丹の鮨やにはいり、握り鮨をつまんだ。フクちゃんにはゆでた海老のお鮨とお椀のなかのお麩をあげる。三年前はピンクの水玉のアッパッパを着せられて陣痛とたたかっていたんだっけと思い出す。記念日があるのはうれしい。毎日がスペシャルだと疲れるが、月イチくらいのスペシャルはあってもいい。
- 作者: 葉山嘉樹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2008/09/21
- メディア: 文庫
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収録作品:セメント樽の中の手紙・淫売婦・労働者の居ない船・牢獄の半日・浚渫船・死屍を食う男・濁流・氷雨
葉山嘉樹という人の年譜が巻末に付されているが、なんだかものすごくて、実家を売らせて工面した学費を三ヶ月で使い込み早稲田を中退、カルカッタ航路で水夫見習い、こどもを相次いでふたり亡くし、セメント会社勤務、労組をくわだてて馘首、名古屋新聞社会部記者、そのあいだに二度共産党で検挙、巣鴨のプリズンにおるうちに妻子は行方しれず、本人は出所してのち肉体労働に従事、そのうち息子ふたりの死を知るという有様で、 連れ合いも何人か変遷している。とことん生活能力にかけた人間という感じ。セメント樽とか死屍の話はかなり異様なキレ味だが、巣鴨後のこどもの死を知ったころの作品らしい。牢獄の半日では、抑えきれない感情のマグマが噴出して、血肉汗にまみれたプロレタリアートの詩になっていて、たいへんな気張りようだ。
サア!巨人よ!
轢殺車を曳いて通れ!ここでは一切がお前を歓迎しているんだ。喜べ此上もない音楽の諧調ー飢に泣く赤ん坊の声、砕ける肉の響、流れる血潮のどよめき。
此上もない絵画の色ー山の屍、川の血、砕けたる骨の浜辺。
彫塑の妙ー生への執着の数万の、デッド、マスク!
宏壮なビルディングは空に向って声高らかに勝利を唄う。地下室の赤ん坊の墳墓は、窓から青白い呪を吐く。
サア!行け!一切を蹂躙して!
ブルジョアジーの巨人!
笑っちゃいけないとおもいながら、デッドとマスクのあいだの読点でこらえられず笑ってしまった。きっとすごい筆圧だったろうな、濃い鉛筆であるとなおよいな、できれば原稿用紙のマスからもはみ出ていてほしいな、と勝手な想像を巡らせる。