うなぎの日に、宿六が保育園の迎えにいったら、入口に猫がいて、遊歩道の途切れるところまでついてきて、こどもたちがえらくはしゃいだと言う。ミルクティー色の若猫で、セイちゃんは、その猫をやまねこと呼んだらしい。セイちゃんは、家の駐車場の隅でひなたぼっこしている馴染みの猫にもやまねこと名前をつけているので、猫の名前はやまねこと決めているのかもしれない。次の朝、フクちゃんを連れて保育園にいきがけ、三角公園のところで、似たような猫を見かけた。しっぽが少しみじかくて、先がかぎのように曲がっている。宿六にきいたら、やっぱりミルクティーだという。でも、宿六とセイちゃんが通ったときには、いなくなっていて、それから姿をみない。懐っこくにゃあにゃあ言ったので、飼猫ではないかと思う。さまざまの色の落ち葉がかさかさ乾いていくなかで、ちょっと頼りなさそうに佇んでいた。
- 作者: 片岡義男
- 出版社/メーカー: 潮出版社
- 発売日: 1997/05/01
- メディア: 単行本
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「女性の服にあるスリットは、男を悪の世界へ引き込む役を果たすものだ」
これ、酔っぱらった中年が居酒屋でべろんべろんで言うんなら想像できるが、しらふだし、女のほうは女で、どうぞ悪の世界にいらしてください、みたいなことを答えて誘っていたと思う。あるいはわたしの関わりのないところでは夜な夜なこのような会話が生じているのかもしれない。
ヒントになったのは、消えてしまった女で、白から黒への無限階調のような色合いのグレーの服ばかり持っていて、どれもしかと思い出せないという。フィッシャー・キングのリディアや、バットマンリターンズのミシェル・ファイファーは全身ベージュで冴えなかった。わたしもベージュやグレーで誰の目にも留まらないような地味さを身につけて、そのうち、ふっと消えてしまうかも。