夜は、毎日揺籠のうた。繭のようにやわらかなことばにうっとりしながら、布団にくるまれる。となりにいるこどものぬくもり。カナリヤの鮮やかな黄色、枇杷の実のうぶげ、木鼠のまるいしっぽ、淡色のムーン、ぜんぶのことばにやわらかさがほどよく詰まっていて、口ずさむと、カナリアと枇杷とりすと月のまるさに心がなぞられる。北原白秋は、ものすごいやさしい気持ちでこのうたをつくったにちがいない。まるいフォルムの歌。
揺籃のうたを カナリヤが歌うよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ揺籃のうえに 枇杷(びわ)の実が揺れるよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ揺籃のつなを 木ねずみが揺するよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ揺籃のゆめに 黄色い月がかかるよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ
- 作者: 沢木耕太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/10/11
- メディア: 単行本
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「あたしは、家で御飯と漬物を食べるのがいちばん好きだし、親子丼とかカツ丼とか、御飯の上に何かがのっかっている簡単なものが好物だし、服だって、セーターとシャツとズボンがあれば、それでいいし……」
「涙って、しばらく泣かないと、眼の裏にたまって、泣きたくなるんじゃないかなあ」
「違う名前を持つというのは、そんなに生やさしいことじゃないんだよね。生まれ変わるみたいに大変なことなんだと思う」
藤圭子のおかあさんは瞽女だったらしいが、藤圭子がうまれた頃には薄ぼんやりと視力もあったらしく、
「あたしにオッパイを飲ませるために胸に抱いていた、その赤ん坊のあたしの横顔と、そのときのねんねこの柄だけは、よく覚えているんだって。そのときの純ちゃんは、ほんとに可愛かったよって、いつも言うんだ……」
このおかあさんの気持ち、その話を何度もきいている「純ちゃん」の気持ちをおもうと、胸がつぶれそう。まぶたの裏に、こどもたちの寝顔を思い浮かべて、しんとなった。