久しぶりで風邪をひいた。金曜あたりから喉に違和感を覚えていたのが、日曜に微熱となり、内臓が飛び出しそうな咳が続くので月曜はいったん休み、ほどなく過ごしていたが、夕方こどもの帰るまえに済ませておこうと風呂に入ったのがいけなかった。湯舟のなかで、出たくないな、でも出ないとどんどん体力が奪われてしまうな、という気持ちがせめぎ合いだし、ぎりぎりのところで湯を出たが、がたがた全身を怖気が襲い、ヒートテック二枚、フリース二枚にさらに上着、スパッツにジャージを重ねばきしたうえに靴下をはいて、毛布と布団を四枚重ねたなかに潜り込んだがちっともぬくまらない。ぬくまらないのでウトウトもできない。まんじりともしないで布団にくるまっていたら、ひっそりした家の孤独がつのってきて、涙がじわじわする。六時をすぎたころ早上がりした宿六が子どもを連れて帰ってきて、PL薬をくれたのを、飲んだら、やっとウトウトして、気づいたら今度は熱に浮かされていた。りんごジュースやポカリスエットを、宿六が布団に運んでくれるまますすり、夜中におしっこ一回、明け方になってやっと熱はさがり、こどもと一緒に起き出したが、お休みは一日中巣篭もりで、よくもこんなに眠れるもんだと感心するぐらいほとんど寝て過ごした。きょうはやっとのことで出社したものの、今度はフクちゃんが熱を出し、保育園から電話が鳴り、わたしも階段を二階分あがったら動悸とめまいがする有様で、急ぎの仕事を片付けて早じまい。
- 作者: 庄野潤三
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/09/29
- メディア: 文庫
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