まみ めも

つむじまがりといわれます

歩く影たち

月曜にはじめてバリウムを飲んだ。ずっしりと重たい紙コップを手にして怯んだが、そのあとでレントゲン室の機械の上でぐるんぐるんまわされ、体をあちこちひねるのはなかなか屈辱的だった。胃の腑にずっしりとバリウムを感じながら、なんとかパンを齧り、下剤と水を流し込んで、そのあとは明らかにパフォーマンスが落ちたが、なんとか正午まで。午後は持病の通院。いつも通り、採血を済ませてからミスタードーナツにいき、チョコファッションとホットコーヒーを二杯。サリンジャーを読む。診察の時間に病院に戻り、血液検査に太鼓判をもらい、薬局で三ヶ月ぶんのチラーヂンを受け取る。二百錠あまり。これがなければ今よりもっと便秘で、太りやすく、冷えて、ぼーっと鬱々するらしい。今だってなかなかのもんなので、しっかり飲まなければいけない。それからブックオフにいって、そんなつもりはなかったが11冊も買ってしまった。図書館を使うようになって、ブックオフでは手元においておきたいものだけを買うようにしているつもりだけれど、今回は豊作だった。
森繁の重役読本/向田邦子
温泉へ行こう/山口瞳
食卓の情景/池波正太郎
旬のスケッチブック/俵万智
犯罪小説集/谷崎潤一郎
ベトナム戦記/開高健
雑学おもしろ百科(十二)/小松左京
にんげん動物園/中島梓(文)山藤章二(絵)
悪友のすすめ/吉行淳之介
老いの生きかた/鶴見俊輔
オシャベリな目玉焼/柴門ふみ
柴門ふみだけ105円、残りは108円。ブックオフのビニール袋を指にくいこませながら、牛乳を買い込み、保育園のお迎えをして帰宅。定型の午後休を過ごすと、とっぷりくたびれてなかなかの充実感。

歩く影たち (新潮文庫)

歩く影たち (新潮文庫)


「兵士の報酬」「フロリダに帰る」「岸辺の祭り」「飽満の種子」「貝塚をつくる」「玉、砕ける」「怪物と爪楊枝」「洗面器の唄」「戦場の博物誌」全9編。
「シブイ」でセルフリファレンスしていた「玉、砕ける」を読みたくて図書館で予約。開高健ベトナム戦争の従軍記者をやっていたのをこの本で知った。

異国の血みどろの惨禍を目撃してリポートを書く仕事をきれぎれながらも、もう十年間、私はやってきたが、いつもその場にたって地べたによこたわって呻吟する人を、助けもせず、祈りもせず、ただ手をぶらさげたままでまじまじと上から見おろしているだけの姿勢、そして大後方の空調のきいたホテルの部屋でうつろで激しい文章を書くだけのこと、それでいくらかの稿料をポケットにすることに、そこはかとなく、いいようのないコンプレックスを感じている。やましさを感ずる。

それにしてもとんでもない話が沢山あって、ベトナム兵は戦争の前線のところまで家族を連れてきていて、銃撃戦のすぐそばで母親が赤ん坊に乳を吸わせていたりするのだが、そもそも戦争自体がとんでもないことなので、とんでもないことの中ではあり得ないことがいくらでもあり得るのだろうな。傍観者の開高健の文章を、ただ読むしかないわたし。