まみ めも

つむじまがりといわれます

ものがたりのお菓子箱

四日と五日は「山のおうち」へ出かけた。「山のおうち」の近くのマタギの夫婦がやっている料理屋で夕飯。山菜や猪の鍋をたべる。たけのこ、根元のところを大きくごろっと切ってまるまる煮てあるのが、ありえないやわらかさでおいしかった。今年はたけのこのあたり年で、表と裏の表だという。よくわからないが、にょきにょき山肌にたけのこが出ていて圧倒される。久しぶりで五人家族が揃った中に、新しい顔がひとつ混じった。「山のおうち」にもどって、セイちゃん六歳のバースデーケーキをみんなでわける。ドラえもんののケーキにろうそくを六本たてた。二日に三十八歳になったおにいちゃんと一緒に、ろうそくを吹き消した。おめでとう。こどもたちとお風呂。外のジャグジーに寒い寒いと駆け込んだらお湯があつあつで、あつ、あつ、と三十秒ともたなかった。おとうさんが持ってきた日本酒を少しだけ舐める。やたらおいしいお酒で、水のようにするりとのどを通りながら、おいしいお酒が水みたいなら、水を飲めばよいのではないかと思いつつ、水ではいけない自分の煩悩に思いを致す。夜、こどもたちを寝かしたあとでサウナに入る。七分半が限界。サウナでぎりぎりまで我慢したあとで山の夜の空の下で空気をおもいっきり吸い込んで、裸の体にざわざわと風が気持ちよい。ふーたん、慣れないベッドでめそめそと泣いた。五日はフルーツとヨーグルトとパンでおそ朝。妹の買ってきたコーヒーが苦くてすっぱくないコーヒーでおいしい。三杯ほどおかわりする。昆虫館に寄って、みつばちの雄をつまんだり、蝶の乱舞する温室やヘラクレスオオカブトを触らせてもらう。カブトムシ、意外に毛がもさもさしていて、毛の部分ばかり見つめてしまう。スーパーに寄り、買出した食料品で家でにぎやかにお昼。食後、コーヒーとお土産のチョコレート。夕方、宿六を最寄りの駅に見送り。家のテーブルの上に、前におとうさんにプレゼントした三木清「人生論ノート」があったので、幸福について、のところをなにげなく読む。何度読んでもうたれてしまう。

機嫌がよいこと、丁寧なこと、親切なこと、寛大なこと、等々、幸福はつねに外に現はれる。歌はぬ詩人といふものは眞の詩人でない如く、單に内面的であるといふやうな幸福は眞の幸福ではないであらう。幸福は表現的なものである。鳥の歌ふが如くおのづから外に現はれて他の人を幸福にするものが眞の幸福である。

いつもどこかしら不機嫌で、おおざっぱで、わがままで、ひとがコーヒーをずるずる啜る音すら気に入らなかったりするので、申し訳ない気持ちがいっぱいになる。

地元のト本。

いつのまにかもうひとつの世界へ連れて行かれる…おいしくて、不思議なお話の詰め合わせ。谷崎潤一郎「魚の李太白」から小川洋子「ギブスを売る人」まで、名匠15人が贈る珠玉の短編アンソロジー
魚の李太白 谷崎 潤一郎
僕の帽子のお話 有島 武郎
月夜とめがね 小川 未明
一つのメルヘン 中原 中也
愛撫 梶井 基次郎
片腕 川端 康成
雨のなかの噴水 三島 由紀夫
ボッコちゃん 星 新一
幸福 中島 敦
白毛 井伏 鱒二
するめ 伊丹 十三
蝿 吉行 淳之介
月のアペニン山 深沢 七郎
死なない蛸 萩原 朔太郎
ギブスを売る人 小川 洋子

「愛撫」「片腕」「雨のなかの噴水」「白毛」は再読。「僕の帽子のお話」は「僕の帽子はおとうさんが東京から買って来て下さったのです。ねだんは二円八十銭で、かっこうもいいし、らしゃも上等です。おとうさんが大切にしなければいけないと仰有いました。僕もその帽子が好きだから大切にしています。夜は寝る時にも手に持って寝ます」という作文からはじまるのだけれど、その帽子への執心がなんともかわいらしい。実家でおとうさんに、じいじ、じいじ、と懐いているフクちゃんに、じいじどうして好きなの、ときくと、かっこいいからというので、どうしてかっこいいの、ときいたら、ぼうし、という。あとで見せてもらうと、庭仕事用のベースボールキャップの、クリーム色で、台湾の大学の先生からもらったという。国立なんとか大学、とちょっと古い字でかいてあって、うす汚れている。浦和に帰る朝に、フクちゃんにその帽子をほい、とかぶせてプレゼントしてくれた。セイちゃんにはブラジルの帽子。フクちゃん、よほどうれしかったらしく、何度も、じいじのおさがり、といって、得意そうにわらう。においをかいで、じいじのにおい、というので、いいにおい、ときくと、くさい、といったので、笑った。じいじの帽子をもらってしまって、じいじかっこ悪くならない、ときいたけど、大丈夫らしい、よかった。