まみ めも

つむじまがりといわれます

〆切本2

ウイークデーは散々で、歯の疼きがなかなかとれず、頭も重たく、薬のせいか疼きのせいかとにかく眠たくてしかたなく、それも気絶するようにすこんと寝てしまう。通勤の電車も本を閉じて寝てしまうし、お風呂でも本が読めないありさまで、やっぱり仕事中にも何度かすこんといった。頼りないことだ。フーちゃんは魔女の宅急便を何度でもみたがる。おかあちゃん、とべるの、ときかれたので、もちろん、と答えておいた。自転車にまたがると、トンボのうしろにのったキキみたいに体をたおして、まほうつかった、と聞いてくる。おーおー、まほうつかったるよ、といってしゃかりきに人力で漕ぐのだった。まっくろで毛玉だらけの十年もののワンピースをがばりと着て、気分だけは魔女になる。

ト。

明治から平成、そして海外まで。幻覚を振り払い、地方に逃亡して、それでも筆を執る作家たち。〆切と堂々と戦ってきた〆切のプロたちの作品を集めたアンソロジー。勇気と慟哭の80編。
学問のすゝめ 福沢 諭吉
作家の生活 源氏 鶏太
書簡 明治四十年 二葉亭 四迷
気まぐれ日記 大正十二年/十三年 武者小路 実篤 
夜なかに思つた事 森 鷗外
手紙 大正十一年 北原 白秋
明治四十二年当用日記 石川 啄木
当分原稿御依頼謝絶 山本 有三
手紙 一八六六年 ドストエフスキー
スランプ 夢野 久作
手紙 大正八年/十年 芥川 龍之介
坂口安吾との往復書簡 昭和二十九年 石川 淳
愛妻日記 昭和五年 山本 周五郎
書簡 昭和七年 小林 多喜二
義務 太宰 治
灰色の皺 松本 清張
永久未完成型、いつもトルソー 丸山 眞男
『放送朝日』は死んだ 梅棹 忠夫
妥協する地点 安岡 章太郎
井上ひさしの遅筆詫び状 井上 ひさし
編集後記 『面白半分』編集部
かんづめ 宮尾 登美子
有眠 向田 邦子
引っ越しだったんです。 川上 弘美
約束 リリー・フランキー
愛の対応、余生は反省 川上 未映子
だれが理解するかあ、ぼけ。 町田 康
手紙/はがき 昭和八年/十一年 萩原 朔太郎
虚子さんの文章 滝井 孝作
手紙/はがき 昭和四年/六年/十五年/十六年 堀 辰雄
拝啓編集長がた様 深沢 七郎
作家と、挿絵画家と、編集者と 五味 康祐
待つこと 小川 国夫
バカラシ記者はつらいのだ 赤塚 不二夫
変人 吉村 昭
野坂昭如「失踪」事件始末 校條 剛
さようなら 團 伊玖磨
「骨の肉」の思い出 河野 多惠子
カンヅメ稼業に悔あり 五木 寛之
神保町 2 片岡 義男
けもの24時間 高橋 留美
一枚の写真、妻のヒトコト-嫌になった、そのときに 椎名 誠
国境と締切り 平出 隆
自由であるということ 村山 由佳
新しいスタート さくら ももこ
妻と作家は両立するか 神近 市子/岡本 かの子/今井 邦子/宇野 千代/中條 百合子/美川 きよ/平林 たい子
愛猿記 子母澤 寛
書簡 昭和九年 川端 康成
異国の女への手紙 一八三三年 バルザック
一杯亭綺言 横溝 正史
字を書く手 辻 佐保子
『銀杏散りやまず』歴史紀行 辻 邦生
おそ起きは三文の得 田中 小実昌
執筆の日々 澁澤 龍子
随筆家失格 澁澤 龍彦
ミステリー作家の二十四時間 赤川 次郎
僕は、とにかくよく眠る 中島 らも
骨折り損のくたびれもうけ 三浦 しをん
化物 野間 宏
研究室裏の空想 木下 杢太郎
水木しげる伝 水木 しげる
直哉の夢 小川 国夫
日々疲々 笹沢 左保
腹立半分日記 昭和五十三年 筒井 康隆
ストップ!!ひばりくん! 江口 寿史
デッドライン 穂村 弘
なぜ私たちはいつも締め切りに追われるのか 松尾 豊
作家の時間割 冲方
締切り 井上 靖
晩年の父犀星 室生 朝子
私の履歴書 室生 犀星
まぼろしの七里湖 大庭 みな子
締切りがまた来るそれが人生 伊集院 静
物書き根性 ハルノ 宵子
残花亭日暦 平成十三年 田辺 聖子
最後の決断 山崎 豊子
ハナモゲラ語の思想 タモリ
読者へ 野坂 昭如
〆切のない世界 堀 道広

みなさんずいぶん追い詰められていらっしゃる。澁澤龍彦は身体感覚がにぶいのか丸一日なにも食べなかったあとで「おなかすいていると思う、ぼく?」ときいてきたりしたという。ちょっとずるすぎませんか、その文脈にぼくって被せてくるなんて。このエピソードだけで三日はにたにたできる。室生犀星「野心なくまた希みのない私こそ本来の私なのであらう」というのはすごくいい。野心も希みもないけれど食欲はあるので、サッポロ一番のみそラーメンにチャーシューとほうれん草とコーンをのせた。いつも汁を盛大にこぼしてしまう。