まみ めも

つむじまがりといわれます

のりものづくし

地元でいきつけだった店に洋風カツ丼というメニューがあった。つぶだったごはんにとろりと光るつゆがかかっていて、うす焼きの卵がオムライスのようにかぶせてあり、その上にトンカツ、ソースがかかっている。その洋風カツ丼が好きで、その店ではそれ以外のメニューをほとんど食べなかった。いつのまにか店のオーナーが変わったとかで洋風カツ丼はメニューからなくなり幻のお皿になってしまった。記憶の中で正体不明のつゆをまとった黄色いまんまるのひと皿が神格化されていく。久しぶりに洋風カツ丼のことを思い出したらいてもたってもいられなくなり、つくってみることにした。ごはんに、めんつゆとケチャップに少し甘みを足したつゆをかけ、卵をかぶせた上にうすく叩いて揚げたチキンカツ、ソースはケチャップとめんつゆ。近い、けれどけして本物には触れられない。記憶のなかのお皿はUFOのようにもはや本物を食べても到達できない領域にとんでいってしまった。でもまた作ろう。

ト。

汽車による初めての大移動、娘と乗った新幹線、札幌とチューリヒの市電の違い、ヒマラヤで出会った頼れる愛馬…。池澤夏樹が、バラエティ豊かな乗り物と旅の思い出を綴ったエッセイ。『Harmony』他掲載を文庫化。

仕事の往復以外にどこにもいけない毎日のかわりに、池澤夏樹が遠いところへ連れていってくれる。ヒマラヤだって、南極だって。自分の思い出深いのりものは、金沢までの夜行列車、パリの移動遊園地の観覧車、ラ・リューヌの登山鉄道。