まみ めも

つむじまがりといわれます

おやすみ、東京

久しぶりにシガーロスをきいている。空気がつめたくなってくると、シガーロスがききたくなる。今週は雨が降って日の光のうすいお天気で、シガーロスが気分にぴったりした。育った家のまわりの、冬のあいだの低いくらい雲としめった空気を思い出して、ずいぶん遠くまできたなという気がする。
気圧が低いからなのか、空模様の変化とあわせて調子が悪くなり、ときどき頭を締めつけるようなぎゅっとした痛みがこめかみにやってくる。頭にたがをはめられた孫悟空の気持ち。いけないことしたのかな、したかもしれない、いけないことしかしてない。

おやすみ、東京

おやすみ、東京

ト。

映画の小道具を探すミツキ、使わなくなった電話を回収するモリイズミ、昼夜が逆転した古道具屋イバラギ…。この街の夜は、誰もが主役。都会の夜の優しさと、祝福に満ちた長篇小説。『Webランティエ』連載を単行本化。
びわ泥棒 p9-32
午前四時の迷子 p33-56
十八の鍵 p57-79
ハムエッグ定食 p81-104
落花生とカメレオン p105-127
ベランダの蝙蝠 p129-152
羽根の降る夜 p153-174
ふたつの月 p175-195
星のない夜 p197-218
青い階段 p219-241
星は見ている p243-263
最後のひとかけら p265-284 

びわ泥棒には身に覚えがある。小学校の帰り道、母親のはたらく茶碗の絵付け工場の道路を挟んだ向かいにある畑に、びわの木が一本あって、幼なじみのあやこと、ランドセルをおろしてびわをとってその場で皮をむいて食べたっけ。隠れて食べていたつもりだったけど、畑の裏はたんぼで、赤いランドセルはきっと目立っただろう。びわは家では食べない果物だったので、口のなかがけばだつようなやさしい口当たりといけないことをやっているうしろめたさがセットになって、あたらしい味だった。いまでもびわはあたらしい味がする。