まみ めも

つむじまがりといわれます

柴田元幸ベスト・エッセイ

 起きたら庭の草木に白い薄化粧。冬の寒さは底かもしれないけれど、日は長くなり、遊歩道の梅は満開を過ぎて白い花びらを落とし、蠟梅がほんのりとにおって、確実に季節がすすんでいる。定点観測の梅が咲いてから、木蓮が咲くまでを、勝手に春のはじまりとおもっていて、一年の中で一番気持ちが前向きになるいい季節だと思う。ほんとうに春がはじまってしまうと、なんとなく気だるくなってしまう。

春日井製菓の花のくちづけを、業務用サイズで買ってしまった。ミルクスモモ味という唯一無二の存在にして、なんといってもネーミングセンスが群を抜いている。パッケージのフォントも丸文字で濁点が花になっているところも乙女仕様でにくい。花言葉がひと粒ごとに書き添えてあるのはスジャータと同じで、なにを隠そうスジャータの褐色の恋人というコピーも大好物です。

 ト。

言葉をめぐり膨らむ妄想。例文が異常に面白い辞書。「貧乏」と「貧乏性」の違い。名曲の斬新過ぎる解釈。そして工業地帯で育った日々の記憶。講談社エッセイ賞受賞作『生半可な學者』、ロックの偉人たちを愛とユーモアたっぷりに語る『ロック・ピープル101』収録作をはじめ、翻訳家として知られる著者が、1980年代から現在まで様々な媒体に発表したエッセイから自選した、文庫オリジナル決定版。

1 日々の実感(狭いわが家は楽しいか   生半可な學者 ほか)
2 文化の観察(アメリカにおけるお茶漬の味の運命   甘味喫茶について ほか)
3 勉強の成果(ドゥ・イット・ユアセルフ・ピンチョン・キット 異色の辞書 ほか)
4 教師の仕事(ある男に二人の妻がいて   死んでいるかしら ほか)
5 不明の記憶(ロボット   どくろ仮面 ほか)

昼休み、お風呂の中、くたびれてウトウトしながら読むのにふさわしい心をほぐしてくれる一冊。成人男性は一日平均十四回おならをするとのこと。