うつろうことになった上司が、あまりに見事な動揺をみせていてちょっとした見ものだった。朝から異動をにおわす呼び出しメールがあったと騒ぐので、そんだけ騒いだんだから面談おわってだんまりはなしですよなんて軽口を叩いていたものの、面談後はこの世の終わりのような顔で地球よりも重たそうなため息を繰り返していてとても話しかける雰囲気ではない。異動発表のあとにはまだ二週間の猶予があるというのにあらゆるミーティングをキャンセルし出し、送別会もいまはちょっとと乗り気でなく、酒の味もわからないとぼやいておる。案外つぎの仕事がはじまったら楽しくしゃかりきになるのではないかという感じがするので、あまり誰も心配していない。こんな風に気持ちの乱高下が見て取れる人もめったにいないので、じたばたするなと思いつつもかえって感心してしまった。
ト。
ロンドンに向かうドリトル先生のサーカスに、とび込んできたカナリアのピピネラ。美しい声で語られるピピネラの身の上話は、カナリアオペラとして上演され大成功。だんまり芝居とともに、ドリトルサーカスは大評判。
目 次
第 一 部
1 動 物 屋
2 白いペルシャ・ネコ
3 動物の伝記
4 ピピネラの最初の旅
5 新しい家
6 さまざまのできごとにあう
7 自 由
8 ドリトル先生の名声
9 サーカス、ロンドンへ
10 とちゅうで
11 サーカス、ロンドンにつく
12 声だめし
13 鳥音楽の歴史
14 ツインク、見つかる
第 二 部
1 ドリトル先生、変装する
2 クロドリを助け出す
3 先生のお帰り
4 ハリス氏の過去
5 背景・衣裳・オーケストラ
6 歌姫の家出
7 カナリア・オペラの開演
8 「ピピネラの生涯」
9 大てがら、大成功
10 動物広告
11 ガブガブの大食堂
12 動物慰安会
第 三 部
1 公爵夫人の晩餐会
2 ジップと香水屋さん
3 広告のいろいろ
4 ポケット型小馬
5 ドリトル・サーカス団員、会議をひらく
6 お金の使いみち
7 「動物銀行」をはじめる
8 パドルビーからのたより
9 密林の幽霊の伝説
10 ドリトル・サーカスの店じまい
ピピネラへのあこがれ……伊 藤 比 呂 美
エッセイでは「あたし」呼ばわりで、マシンガンのようにたたみかけてくる伊藤比呂美が、ドリトル解説では「わたし」だったのでちょっと意外。そうか、いつでもあたししてるわけではないのね。ちょっと「あたし」人種にハードルを感じてしまうのやけど、「あ」が「わ」になるだけでかなり印象がちがってしまう。aikoがわたしで歌ったらまったく違う歌になるだろうな。五十音でもあからわまではかなり遠い。