まみ めも

つむじまがりといわれます

うさぎ屋のひみつ

おとうさんが死んだ翌朝は、小春日和のさわやかな朝陽が白山のシルエットを作っていた。角のコンビニでダブルソフトとバターロール、お茶と牛乳とヨーグルトを買い込んで、朝ごはん。朝風呂に浸かり、ふとんを片付け、お客が途切れ途切れにあり、葬儀の打ち合わせ。お昼をまたコンビニで買って済ませ、遺影の写真を選び、挨拶文を作り、古い写真を眺める。おとうさんとおかあさんが、新婚旅行に出る前に駅で写した写真が出てきた。卒業のラストシーンのバスのふたりのような頼りなさげな表情で佇んでいる。それと、古い日記。小学生のころのものと、大学生のころのもの。赤とんぼや、家の中に迷い込んできた虫、枕元の仏花の白い中にひとつだけひらいたピンク色、おとうさんがいるのだなと思うことにする。内輪通夜があり、おやつを食べ、夜はお弁当。

お通夜。打ち合わせをし、奈々ずしでお昼。お葬式を予定していなかったので、しまむらユニクロで買ってきてもらう。四時に納棺。お兄ちゃんのシャツ、お気に入りだったユニセフのネクタイ、スーツをのせて、妹の口紅を塗ってもらって、すこしお父さんらしくなる。お通夜にはちらほらと懐かしい友だちがきてくれ、一緒にかなしんでくれることがありがたい。弔問客が多く、ロビーに溢れた。通夜ぶるまいをして、夜はおかあさんといもうとと、おとうさんのいなくなった家で寝そべる。

お葬式。冷たい北陸の冬という空になった。斎場に泊まり込みしたこどもたちが描いたおとうさんの顔や手紙を棺にのせてあった。アンチェインド・メロディとオンリー・ユーをエンドレス・リピートで流しておとうさんとさよならをする。張り込んだ祭壇のお花を敷き詰めて、海のそばの火葬場にいく。波が荒い。おとうさんを焼いているあいだ、みんなで軽食。お骨をひろって、お寺さんにいき、お経をあげてもらって、斎場で会食。夜はこどもたちを寝かせたあとでわいわいと香典の清算。お淋し見舞にいただいた両口屋是清の旅まくらがおいしい。

翌朝、昼前にお経をあげてもらい、荷造りをして、お昼はおたふくで久しぶりにまともな食事。こどもたちが玄関先で遊んでいるときに、紅葉したハートの形のはっぱを拾ってきた。遺影と一緒に荷物にいれる。おにいちゃん家族に見送られてかがやきに乗り込む。浦和まで迎えにきてもらい、お友だちが鍋をごちそうしてくれて、おとうさんの話をきいてもらう。おとうさんがいないのだということは、これからしみじみときいてくるのだと思う。スマホが鳴るたび、もう悪いニュースはこないのに、どきっとする。

ふとんからぼくのにおいが消えたときほんとの意味で訪れる死後 /岡野大嗣

いないと感じているうちは、まだいるのかも。

うさぎ屋のひみつ (現代の創作児童文学4)

うさぎ屋のひみつ (現代の創作児童文学4)

 

 ト。

「今夜のおかずは、なににしよう?」と、つぶやく奥さんのところへ、「夕食配達サービスうさぎ屋」がやってきた。料理はとてもおいしくて、やめられない。奥さんは、その秘密を見つけようとする。ほか3編。

うさぎ屋のひみつ p7-38
春の窓 p39-75
星のおはじき p77-92
サフランの物語 p93-127

はじめて読んでも懐かしくて鼻の奥につんとくる。 安房直子を読むと、曲がり角の向こうでおとうさんや懐かしい人に会える気がする。