年越しの本は、庄野潤三の「せきれい」を選び、丁寧に読む。今週の火曜日、冷たい雨降る一月七日に遊歩道の定点観測の梅の木が白い花を咲かせた。その日、本の中でも梅が咲いた。
梅咲く(一月十一日)。
1997年の梅は、生田の山の上で今年より四日遅れで咲いている。いまと過去の季節が螺旋のようにつながり、ダブる。ゆっくり読まなくてはならない気持ちになり、ページをめくるのをやめた。
家に戻り、わたしの中にオレではなく日常が戻ってくる。こどもたちに野菜を刻んでもらい、カレーを煮た。鍋にたっぷりのカレーがあれば大丈夫という気持ちになる。
ト。
三島由紀夫、開高健、手塚治虫、池波正太郎、植草甚一、植田正治、向田邦子など31人の作家が日頃食したお菓子やフルーツを紹介。甘さ、辛さのなかに作家の隠された素顔が現れる。
三島由紀夫―作家は食をあれこれ語るべからず
手塚治虫―「チョコレートがないと僕は描けません」
開高健―饅頭もたこ焼きも、わしは研究しつくすデ!
檀一雄―「杏仁の匂いなつかしい」と作って食べた杏仁豆腐
植田正治―「なんかないか、なんか甘いものないか」
瀧口修造―お菓子なのか、オブジェなのか?
市川崑―せんべいはちょこっとつまめるあられにかぎる
沢村貞子―おひるは、おやつていどでいい
坂口安吾―ヒロポンとアドルムとあんこ巻き
久世光彦―母が選んだ、うっすらミルクの匂いがするおやつ
[他〕
向田邦子、中里恒子、植草甚一、石井桃子、
小津安二郎、種村季弘、川端康成、茨木のり子、
池波正太郎、吉屋信子、古川緑波、井上光晴、
色川武大、荻昌弘、内田百閒、古波蔵保好、
團伊玖磨、吉田健一、森茉莉、獅子文六、澁澤龍彦
せきれいを閉じて手に取った本。市川崑の愛用していたスヌーピーやミッキーマウスのお皿の感じがいい。統一されていないけれどたしかなセンスがあってうっとりする。川端康成の通った洋菓子店は学生のときに住んでいたマンションのそばにあったので懐かしい。今はもうなくなってしまった。エロを感じますねと文豪にいわしめた絶妙なピンクのプチ菓子、どこかで売ってないのかな。