商店街を一本入ったところに、戦後の闇市のような風情を残したちょっといかがわしい雰囲気の八百屋がある。働いている人も少しだけはみ出た感じがして、お釣りをもらうときに手と手が触れるとなんだかどきっとする。その八百屋に、とんでもない値段の野菜が売っているときがある。先週は熊本産のミニトマトが箱で216円。袋に詰めてもらい家に持ち帰って数えたら283個あった。熟しきってはじけているのもいくつか混じっている。冷蔵庫でつめたくして、夕飯の支度をしながらぽいぽい口に放り込んで食べる。ひとつ1円もしない。味は、いかがわしいことはなくて、ふつうに赤いトマトの味がする。
料理番組を録画してみるのが楽しみ。「おかずのクッキング」フレッシュトマトとひき肉のスパゲッティの回では、土井善晴がゴッドファーザーを語るので前のめりになってしまった。フライパンの中のトマトに砂糖をふりかけて「料理は男のたしなみだ」とアル・パチーノの台詞で決める。あまりに素敵で巻き戻して二回見た。と思ったら、今度はノンストップのワリカツ飯で、ずんの飯尾もゴッドファーザーの話をする。アンディ・ガルシアとソフィア・コッポラがパスタを作るシーン。ゴッドファーザーを見直さないといけないなと思う。とりあえずひき肉とトマトのスパゲッティを作った。もちろん砂糖をふりかけるのを忘れずに。
- 作者:島田 潤一郎
- 発売日: 2019/11/27
- メディア: 単行本
https://www.shinchosha.co.jp/book/352961/
ト。
転職活動で50社連続不採用、従兄の死をきっかけに33歳でひとり出版社を起業した。編集未経験から手探りの本づくり、苦手な営業をとおして肌で触れた書店の現場。たったひとりで全部やる、小さな仕事だからできること。大量生産・大量消費以前のやりかたを現代に蘇らせる「夏葉社」の10年が伝える、これからの働き方と本の未来。
はじめに
だれかのための仕事
仕事がしたい/風で揺れるカーテン/本と本屋さんが好き/だれかのために/お金という物差し/一編の詩から/教科書営業の日々/すべては延長線上に/事業計画書/復刊という選択/ひとり出版社の仕事/自分の仕事の場所をつくる/手紙のような本/さよならのあと/海辺の町で
小さな声のする方へ
だれでもやれる/職種について/巨大資本から逃れて/大きな声、小さな声/好きな本から学ぶ/本は人のよう/ひとりではできない/あたらしいもの/一冊に本、ひとりの読書/若い人たち/はじめる勇気、待つ勇気/山の上の出来事/本の力、文学の力/人と人のあいだに/忘れられない人
あとがき
津村記久子が「たとえ時代に損なわれるようなことがあったとしても、自分たちは誠実であることができるし、地道な努力を重ねながら、やりたいことだってできるということを、この本は信頼させてくれるはずだ。」と言っている通り、やりたいことで生きることをあきらめなくていいと教えてくれる一冊。 いつか「山の上の家」にも行ってみたいと思う。