まみ めも

つむじまがりといわれます

文学はおいしい

駅前の八百屋に、鮮やかな黄色がパック詰めされて38円だったので買って帰る。食用菊をはじめてたべたのは九年前で、お隣のおじいさんが庭先で黄と紫の菊を咲かせていて声をかけたら、たべてみっかとわけてくれた。そのおじいさんは骨を折って入院したとかで夏ごろから姿を見かけない。おじいさんのちゃんちゃんこや干していた布団の柄まで懐かしい。

持ち帰った菊の花びらを毟り、茹でて、大根おろしと和えてぽん酢で食べた。丁寧な暮らしっぽいことをしている自分に一抹のうしろめたさがあり、バランスを取るためにポテトチップスを一緒に買ったりして。

文学はおいしい。

文学はおいしい。

 

ト。

日本の食と文学への愛を綴ったエッセイ集。カラーの料理挿絵つき。共同通信社配信の連載を改題して単行本化。

カツ丼:吉本ばなな『キッチン』/牛鍋:仮名垣魯文安愚楽鍋』/すき焼き:田辺聖子『人情すきやき譚』/湯豆腐:久保田万太郎の名句/コロッケ:幸田文『流れる』/鯖の味噌煮:森鴎外『雁』/サワラ:村上春樹ねじまき鳥クロニクル』/ホヤ:三浦哲郎「火の中の細道」/鯛:谷崎潤一郎細雪』/おむすび:石川淳『焼跡のイエス』/白玉:永井荷風『墨東奇譚』/冷奴:安岡章太郎『酒屋へ三里豆腐屋へ二里』/ビール:田山花袋田舎教師』/鮨:志賀直哉小僧の神様』/心太:泉鏡花『縷紅新草』/トンカツ:太宰治『グッド・バイ』/秋刀魚:佐藤春夫「秋刀魚の歌」/鰹節:宮尾登美子『櫂』/アイスクリーム:夏目漱石『こころ』/お好み焼き:高見順『如何なる星の下に』/きつねうどん:壺井栄二十四の瞳』/天ぷら:中里恒子『時雨の記』/鳥鍋:川端康成伊豆の踊子』/蛸しゃぶ:川上弘美センセイの鞄』/そば:永井龍男「冬の日」/納豆:野村胡堂『食魔』/ごり汁:室生犀星『漁眠洞随筆』/根深汁:池波正太郎剣客商売』/ラーメン:長谷川伸『ある市井の徒』…など100点100余作。

読むことと食べることでダブルで味わう作品たち。