まみ めも

つむじまがりといわれます

黒百合

朝、遊歩道を通らずに公園を抜ける道をいくと、噴水のわきで歌をうたっている人たちがいる。ギターを鳴らす人と、車椅子の人と、お年を召したかたたちが六、七人で集い、ちょっと離れた手すりのところに犬が一頭つながれている。このあいだは、真赤な秋、その次は、明日があるさ、今日は、歌の合間でなんの歌かわからなかった。ふるえる歌声をきいていると「素敵な宇宙船地球号に乗り合わせたわたしたち」という一途な気分がしてくる。

エフ本。

「六甲山に小さな別荘があるんだ。きみと同い年のひとり息子がいるので、きっといい遊び相手になる。一彦という名前だ」父の古い友人である浅木さんに招かれた私は、別荘に到着した翌日、一彦とともに向かったヒョウタン池でひとりの少女に出会う。夏休みの宿題、ハイキング、次第に育まれる淡い恋、そして死。1952年夏、六甲の避暑地でかけがえのない時間を過ごす少年たちを瑞々しい筆致で描き、文芸とミステリの融合を果たした傑作長編。才人が到達した瞠目の地平!

エフちゃんの貸してくれるミステリにはいつも見事に裏切られる。