まみ めも

つむじまがりといわれます

村上さんのところ

金曜の夜はハンバーグを焼いて、ごはんのあとは家族みんなでソファに並んでテレビを見た。菓子パンの袋のつもりで出たけれど、正真正銘の菓子パンの袋がつむじ風に舞っている映像がうつっていた。

おとうさんが死んだことは、どうしようもない大きな穴だけれど、時間をかけて喪失感は少しずつ自分のものになって、損なわれた自分として生きていくということが、死を受け入れるということなのかなと感じるようになった。木下龍也さんにもらった短歌は、素直ではないわたしの素直なきもちを、素直なことばで掬い上げてくれた。木下さんのことばは何度も反芻するうちにわたしの一部になり、埋めようのない大きな穴を、穏やかにやさしく照らしている。

そんなことを、テレビの取材を通じてはじめてきちんと考えた。NHKのディレクターさんは、こちらの生活にあわせて何度も週末に足を運んで、とりとめのないわたしの気持ちをわかろうとしてくれた。こんなふうにおとうさんに対する自分の気持ちを誰かに打ち明けたことはなかったので、ちょっと、いい時間だったなと思う。

古本いちで。いくらだったかは忘れてしまった。

4ケ月限定の質問・相談サイト『村上さんのところ』で、村上春樹が答えた約3700問の中から名問答473問を厳選して収録。日常のお悩みから、ジャズ、恋愛、生き方まで、迷ったら何度でも読み返したい「人生の常備薬」。

ちょうどインタビューを受けているときに読んでいた本。身近な人の死の受け止め方について村上春樹がこう書いている。

「もしあなたの中に空洞があるのなら、その空洞をできるだけそのままに保存しておくというのも、大事なことではないかと思います。無理にその空洞を埋める必要はないのではないかと。これからあなたがご自分の人生を生きて、いろんなことを体験し、素敵な音楽を聴いたり、優れた本を読んでいるうちに、その空洞は自然に、少しずつ違うかたちをとっていくことになるかと思います。人が生きていくというのはそういうことなのだろうと、僕は考えているのです。」