まみ めも

つむじまがりといわれます

しびれる短歌

ざあざあ降る雨で一日そとに出られない、と思ってみたけれど、退院してひと月が過ぎるまでは家におこもりなのだったっけ。おかあさんはあしたの朝まで、きょうは雨のなかを二度おつかいに出て、キャベツやじゃがいもや玉ねぎの重たい野菜を買い込んで、とり肉のつくねやスパゲティサラダやカレーを作りおきしてくれた。あしたの朝はお昼のサンドイッチをこしらえていくらしい。とことんかわいげのない娘にここまでやってくれる母のもの凄さにくらくらする。

しびれる短歌 (ちくまプリマー新書)

しびれる短歌 (ちくまプリマー新書)

 

ト。

恋の歌、いまがわかる家族の歌、イメージを裏切る動物の歌、人生と神に触れる時間の歌、豊かさと貧しさを歌ったお金の歌、表現が面白いトリッキーな歌…。ふたりの歌人東直子(ひがしなおこ)と穂村弘(ほむらひろし)が、さまざまな短歌をとりあげ、作品の向こうの景色や思いを語る。

短歌というものがよくわからないながら、さわりたい。でも、じかにさわるのは自信がなくて、穂村弘東直子をつかってさわる。なんとなくわかったような気になるけれど、本当はなにもわからないままただふれてしびれておればいいんだよな。

えーえんとくちから

退院の二日後におかあさんが来て、家のこまごまとした仕事を片付けてくれている。庭の草取り、シーツの洗濯、掃除機、炊事、買い出し。きょうは小学校がお弁当給食で、おかあさんにお弁当作りをまかせて、こちらは七時までぐーぐー寝た。おかあさんのお弁当がうらやましくなり、わたしもおねだりをしてお弁当箱に詰めてもらう。さつまいもの豚肉巻き揚げ、人参のグラッセ、玉子焼き、枝豆にプチトマト。おかあさんの玉子焼きは几帳面に黄色が均一に巻いてある。こどもたちにはフルーツもはいり、おにぎりは全体に海苔を巻いてまっくろなかたまりがふたつ。このばくだんみたいなまっくろいおにぎりを見ると、おかあさんのおにぎりだなあとなつかしく胸がキュンとする。おかあさんのお弁当をこれからあと何回食べられるだろうかということを考えてしまう。もったいなくて写真を撮った。

えーえんとくちから (ちくま文庫)

えーえんとくちから (ちくま文庫)

 

ト。

えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい

2009年、26歳でこの世を去った歌人・笹井宏之。鋭敏で繊細なまなざしから生まれた、やさしくつよい言葉が詰まった作品集。未発表原稿を加えて文庫化。

透きとおったことばで編まれた切実な短歌たち。ていねいにすくい取られた瞬間の凝縮した三十一文字は、えーえんとくちからがもたらしたものなのかもしれず。

葉桜を愛でゆく母がほんのりと少女を生きるひとときがある

風立ちぬ

二週間がたち、きのう期限ぎりぎりで出生届を提出。二択にしぼってからなかなか決めきれず、あみだくじもやって、ようやっと、源三に決まった。うまれてすぐに瞳がうるうるしてたので、さんずいの名前がよかった。名前が決まるまではみんなでばぶちゃんばぶちゃんと呼ばっていたけれど、名前がつけられるともうげんちゃんという顔つきに見えてくる。気分のよいときにフニャッと一瞬だけわらうと、いろんなしんどさがふっとぶ。

貧血があるのか、ときどきぐらりと震度3くらいのめまいを起こすけれど、つわりが一挙になくなって満腹を感じない体になったので、もりもりごはんを食べている。いろんなものの味わいが戻ってきたかわりに、つわりのときにすがるように食べていた甘夏やトマトの格別な味わいは立ち消えてしまった。

風立ちぬ [DVD]

風立ちぬ [DVD]

 

金ロー。

大正から昭和にかけての日本。戦争や大震災、世界恐慌による不景気により、世間は閉塞感に覆われていた。航空機の設計者である堀越二郎はイタリア人飛行機製作者カプローニを尊敬し、いつか美しい飛行機を作り上げたいという野心を抱いていた。関東大震災のさなか汽車で出会った菜穂子とある日再会。二人は恋に落ちるが、菜穂子が結核にかかってしまう。

はからずもヒコーキ野郎の映画を立て続けにみることに。翼を歩くシーンでロバート・レッドフォードと二郎が重なる。荒井由実の歌声ののびが心地よい。

華麗なるヒコーキ野郎

ばびの体重が減って、入院することになってしまった。もともとちいさかったのにさらにひと回りちいさくなり、吸う力が弱くなってしまったらしい。三日間で文庫本一冊くらいの重さが減っていた。体重の7パーセント弱。不甲斐なさとさみしさでじゅわじゅわ泣けて、静かな家に帰ってぼんやり時間を持て余す。よく日、診察のついでに絞ったおっぱいを届けたら、おっぱいが足りないだけなので帰ってよいということになり、夕方に退院のしたくをして迎えにいった。ほっとしたら涙のかわりにおっぱいがじゅわじゅわとしみでる、けもののわたくしである。

撮りためてあった「プ」から。原題はThe Great Waldo Pepper。

1920年代を舞台に、空を飛ぶ魅力に取り憑かれた男たちの生きざまを、勇壮に、ロマンティックに描いた名編。第一次大戦で空の勇士と名を馳せたパイロットたちも、今や遊覧飛行で日銭を稼ぐしがない身分。その中でもウォルド・ペッパーは曲乗り飛行で有名で、やがてハリウッドに招かれスタントマンとなる。そこで出会ったのが、終生のライバルであり憧れの人物でもある元ドイツ空軍の撃墜王ケスラー。ペッパーとケスラーは互いの技量に敬服しつつ、空中戦のスタントのため、二人して大空に舞い上がっていく……。

こちらも二度目のロバート・レッドフォード

華麗なるヒコーキ野郎 - まみ めも

華麗なるなんてもんではなく、とんでもないヒコーキ野郎たち。すべての人に約束されている死にぎりぎりまで近づくことで、いのちの濃度を高めようとしているような、でも、見てらんないな。

追憶

退院してみたら庭先の紫陽花がいい感じに白さを増して、初夏の日差しを浴びて光っている。遊歩道のびわもオレンジが濃くなった。

退院の日は、家についてすぐに哺乳瓶の消毒と米を炊き、お昼はレトルトのカレー。夜はポテトサラダや焼きそばを作って、あけて月曜はオムライス。小さくうまれたばびはまだ上手におっぱいが吸えないで、いやいやして泣く。哺乳瓶のミルクもちうちう吸うのでものすごく時間がかかり、ヤクルトにも満たない量のミルクを小一時間かけて吸っている。その音を聞きながらソファにもたれて白目をむいている。きのうから母が手伝いにかけつけてくれ、おそ昼でいなり寿司やかにめし、夜は焼き鳥。おなかの調子がしんどくて、三時間も四時間もトイレにこもる羽目になり、尋常でない量の冷や汗をかいた。日付が変わるころにやっとなんとかなり、気絶するようにこま切れの眠りに落ちた。寝起きの顔がずいぶんくたびれている。

追憶 (字幕版)

追憶 (字幕版)

 

プ。

第2次世界大戦以前からおよそ20年の激動の時代を生きた男女の愛の姿を描いた名匠シドニー・ポラック監督の社会派ラブ・ストーリー。1937年、大学のキャンパスで政治活動に熱中するケイティ(バーブラ・ストライサンド)とノンポリのハベル(ロバート・レッドフォード)は出会い、互いの思想の相違を感じるが、戦争中にふたりは再会し、急速に愛し合うようになり結婚。やがてハベルは映画脚本家となるが、50年代ハリウッド赤狩りの中、ケイティは反マッカーシズム運動を展開する一方、ハベルは己の創作に限界を感じ始め…。
20世紀アメリカ思想社会の流れと男女の愛の行方を巧みに組み合わせながら、ロマンティックな味わいを醸し出すことに見事成功した卓抜たる作品。ストライサンドが歌う主題歌は、今も歌い継がれる映画音楽のスタンダード・ナンバーである。

ロバート・レッドフォード特集をやっていたときに録画しておいた「追憶」をやっと見る。二度目。

追憶 - まみ めも

冒頭のロバート・レッドフォードのジョギングシーンのわき汗に目が釘付け。グレーのスウェットは汗じみがわかってなかなかよろしい。ロバート・レッドフォードのさらさらの金髪、白のソックスがとにかくまぶしい。前髪にそっとふれるケイティの指の震えよ。そしてやっぱりバーブラ・ストライサンド演じるケイティの愛がつらくて自分をかさねて泣きそうになってしまった。あー、人を好きになるってしんどい。愛を抱いたまま自分の道を歩きはじめたケイティのはればれした顔にほっとする。

世界の果ての国へ

家から最寄りの産院は、微妙かつやや過剰なセレブ感を醸しており、コンシェルジュのサービスがあってハーブティーを出してくれたり、入院する部屋も星だの宇宙だのコンセプトがあったり、お産のときにはモニターにタイミングにあわせてCongratulationsとメッセージが出たりする。ひとが一世一代レベルの必死こいてるこの状況でだれがこのメッセージのタイミングを操っているのかと思うけれどもわからずじまいだった。食事のメニューも凝っており、内容はもとより、美肌deアンチエイジングmenu、疲労回復BITEKIメニューなどと銘打たれた膳だったりして、ちょっとたじろぐ。祝膳でも、チーズケーキがハートの形にくり抜かれ天使の羽がささっていて、乙女仕様ぶりにおもわず笑ってしまった。産後のぼろぼろよれよれになった体との温度差よ。鏡にうつったすっぴんの顔は寝不足と疲れでむくれて、とても美肌とかアンチエイジングとか言ってる場合ではない。ともかく、ばびとのふたりきりの三晩をすごし、きょうで退院。

世界の果ての国へ (安房直子コレクション)

世界の果ての国へ (安房直子コレクション)

 

ト。

 鶴の家
日暮れの海の物語
長い灰色のスカート
木の葉の魚
奥さまの耳飾り
野の音
青い糸
火影の夢
野の果ての国
銀のくじゃく
シャガールの絵の中の鳥
言葉と私

入院の支度のなかには安房直子をいれておいた。お産の日はひとりきりで、ベッドに横になり、でも、気持ちがたかぶって眠れないので、世界の果てに連れてってもらう。お話の登場人物たちは遠くへいってしまった、わたしも眠りの世界にいって、つぎの朝は、ベッドで目が覚めた。世界の果てにはいってないっぽい。とりあえずこの世界でやっていく。おはよう、ばび。 

まよいこんだ異界の話

おしるしがあり、ぐりぐりする断続的な痛みでひどい寝汗をかき、夜はまともに眠れないのがふた晩つづいた。きのうは朝も寝床から起き上がれず、なんとか階下におりてソファに寝そべり、家族を見送ったあとで、すこし動けるようになって、おそ朝のフルーツとジュース、入院の支度を確認して、ソファにもたれて本をぺらぺらと眺めて過ごした。お昼は精をつけようと思って、ごはんを炊き、とっときに買っておいたうなぎを1/3尾、チンして、タレをまぶし、本当なら大葉と茗荷をたっぷり刻みたかったけれど、痛みが15分おき、立ち上がるとギューとするので、大葉を一枚だけちぎってのせたうなぎ飯をかきこんではや昼。病院に電話をし、タクシーを呼びつけ、歯みがきとこども宛のメモを残して、病院についたのが正午すぎ。いるかの舞う産室で、産ぶ声は二時間後だった。こんにちは、瞳のうるうるしたばびちゃん。

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まよいこんだ異界の話 (安房直子コレクション)

まよいこんだ異界の話 (安房直子コレクション)

 

ト。

ハンカチの上の花畑 p9-116
ライラック通りの帽子屋 p117-154 
丘の上の小さな家 p155-214
三日月村の黒猫 p215-304 
昔おぼえた詩 p306-308 
私のアンデルセン童話集 p308-311 
小人との出会い p311-312 
小人と私 p312-313 
ライラック通りの帽子屋」のこと p313-315 
童話と家事と p315-317 
家の中の仕事 p318-320

妊娠中は食べものだけではなく本にもつわりがあるようで、そんなときに、苦みのあるさわやかな安房直子はぴったりだ。どこにもいかないで一番とおいところまで連れてってくれる。そして、ほんのりと、世界に魔法がかけられる。