まみ めも

つむじまがりといわれます

霧中の読書

またひとつ歳をとった。おなじ誕生日に村上春樹と木下龍也。村上春樹は71歳、木下龍也は32歳、こちらは40歳。村上春樹と木下龍也に挟まれるのは、悪くない感じ。お父さんは誕生日の前に死んだので、これからひとつずつ、お父さんの歳に近づいていくのだなと考える。誕生日の朝は、こどもたちがベッドに潜り込んできて、四人に囲まれてしばらくだらだらとお喋り。下におりると、せっせとパンケーキを焼いているところで、焦げたパンケーキのおそ朝。小麦粉を、強力粉と薄力粉で迷ったというけれど、二択は間違えていなかった。夜はお友だちのお宅に呼んでもらい、ご馳走になった。プレゼントはガーゼのパジャマを買ってもらった。

霧中の読書

霧中の読書

 

ト。

書物について書くことは、霧の中にいるようなものだ。「風景の時間」「川上未映子の詩」「西鶴の奇談」など、荒川洋治が2016〜2019年に発表したエッセイから45編を選び、書き下ろし1編を加えて単行本化。

荒川洋治のまっさらな感受性を通してときにきびしく、ときにきらきらと本について読んでいると、どんどん読みたい本が出てくる。読んだ本も読み直したくなる。色川武大サローヤン井原西鶴漢字の閉じ開き、〜のだ、という言葉づかい、主語のない文章が荒川洋治していてうれしい。一人称は平仮名でぼく。ずっとぼくでいてほしい。

作家のおやつ

年越しの本は、庄野潤三の「せきれい」を選び、丁寧に読む。今週の火曜日、冷たい雨降る一月七日に遊歩道の定点観測の梅の木が白い花を咲かせた。その日、本の中でも梅が咲いた。

梅咲く(一月十一日)。

1997年の梅は、生田の山の上で今年より四日遅れで咲いている。いまと過去の季節が螺旋のようにつながり、ダブる。ゆっくり読まなくてはならない気持ちになり、ページをめくるのをやめた。

家に戻り、わたしの中にオレではなく日常が戻ってくる。こどもたちに野菜を刻んでもらい、カレーを煮た。鍋にたっぷりのカレーがあれば大丈夫という気持ちになる。

作家のおやつ (コロナ・ブックス)

作家のおやつ (コロナ・ブックス)

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2009/01/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 ト。

三島由紀夫開高健手塚治虫池波正太郎植草甚一植田正治向田邦子など31人の作家が日頃食したお菓子やフルーツを紹介。甘さ、辛さのなかに作家の隠された素顔が現れる。

三島由紀夫―作家は食をあれこれ語るべからず
手塚治虫―「チョコレートがないと僕は描けません」
開高健―饅頭もたこ焼きも、わしは研究しつくすデ!
檀一雄―「杏仁の匂いなつかしい」と作って食べた杏仁豆腐
植田正治―「なんかないか、なんか甘いものないか」
瀧口修造―お菓子なのか、オブジェなのか?
市川崑―せんべいはちょこっとつまめるあられにかぎる
沢村貞子―おひるは、おやつていどでいい
坂口安吾ヒロポンとアドルムとあんこ巻き
久世光彦―母が選んだ、うっすらミルクの匂いがするおやつ
[他〕
向田邦子、中里恒子、植草甚一石井桃子
小津安二郎種村季弘川端康成茨木のり子
池波正太郎吉屋信子古川緑波井上光晴
色川武大荻昌弘、内田百閒、古波蔵保好
團伊玖磨吉田健一森茉莉獅子文六澁澤龍彦

せきれいを閉じて手に取った本。市川崑の愛用していたスヌーピーミッキーマウスのお皿の感じがいい。統一されていないけれどたしかなセンスがあってうっとりする。川端康成の通った洋菓子店は学生のときに住んでいたマンションのそばにあったので懐かしい。今はもうなくなってしまった。エロを感じますねと文豪にいわしめた絶妙なピンクのプチ菓子、どこかで売ってないのかな。

狸ビール

晦日の朝はすこし早く起きて寝ぼけまなこで朝ごはんをすませてから仏壇に手を合わせ、荒れる予感に満ちた北陸の天気に押し出されるように、鎌倉までやってきた。 駅のホームで、いつまでも手を振るおかあさんの小さく細い体がせつなくて、なのにどうして心配ばかりかけて親孝行ができないのだろう。山の上の家につき、夕方は極楽寺まで散歩をした。風が冷たく吹いてきて、夕焼けは赤く濃かった。あしたはお正月なので、お風呂で、いつもより念入りにこどもたちの体を洗ってやった。深いゆぶねのなかで、来年は、しぬ人がゼロ人で、うまれる人が百人いるといいね、とふくちゃんが言った。それがいいねといいながら、うまれるその百人もみんな死ぬんだよなと思わんでいいことを思って先取りで悲しくなってしまう。先取りは貯蓄だけにしておけと頭の中のFPが物申している。

狸ビール (講談社文庫)

狸ビール (講談社文庫)

 

ト。

鉄砲をもつと森の暗さや乾いた草の匂いを思い出すという英文学者の、心優しい鉄砲撃ちの24のお話。狸はビールによく合うと狸を食べ過ぎ2週間も狸の臭いが抜けずに困った話、鴨の沖撃ち、多摩丘陵の小綬鶏と河上徹太郎氏そして猟犬達の思い出など30年熟成、ユーモア+ほろ苦ビール。講談社エッセイ賞受賞。

図書館の 文庫の棚からタイトルで選んだ一冊。「ぐうたらの重ね着」をしている伊藤礼の飄々とした書きっぷり。

今年の本は、なにを読んでもさみしい苦い味がまじってしまった。心の片隅のさみしさは、ブコウスキーがポケットに入れていた死のように、食べ残したドーナツの穴のように、ずっとあり続けるのかもしれず、なんとかうまく付き合っていくしかない。

もものかんづめ

兄の新築の家にみんなで集まって、忘年会のようなことをした。兄嫁のつくる几帳面な顔をしたごはんたち。豚汁、煮物、ちらし寿司、揚げないコロッケ、生ハム、クリームチーズ 。一軒家をたて、ローンを組み、数十年ものの月々払いを背負い込むということに、おそれ多いような気持ちを抱いてしまう。来年には実家を壊した跡地に妹夫婦も普請をする。そうか、君たちもそちらへ行くのか。未来を約束するというのは、おそろしいことで、とにかく責任をもつということから逃げ続けている人生なのだけれど、そのくせよく結婚をしてこどもをうんだよなとひとごとのように思う。年の明けないうちからこどもたちにお年玉をもらってしまったけれど、ほんとうに年は明けるのだろうか。

もものかんづめ (集英社文庫)

もものかんづめ (集英社文庫)

 

ト。

「こんなにおもしろい本があったのか!」と小学生からお年寄りまでを笑いの渦に巻き込んだ爆笑エッセイの金字塔!! 著者が日常で体験した出来事に父ヒロシや母・姉など、いまやお馴染みの家族も登場し、愉快で楽しい笑いが満載の一冊です。「巻末お楽しみ対談」ではもう一度、全身が笑いのツボと化します。描き下ろしカラーイラストつき。

帰省のおともに、軽くて気楽な文庫本を何冊か選んだうちの一冊。さくらももこ、もうこの世にはいないけれど、ちびまる子ちゃんはずっと昭和を生きている。

マザコン

実家に来た日に食べた刺身がねっとりと甘かった。ぶり、ひらめ、いか、まぐろ。きょうは北陸の冬には珍しく青空で、犬の散歩に出た日暮れどき、白山がのぞいて、帰り道には下弦の月と宵の明星で、夕焼けがぎりぎりの低さまで見える空の広さに、深い夜更の予感までグラデーションがあり、たんぼにうつる景色の奥行きに泣きたくなるような郷愁と、でもどこにも巻き戻しのきく過去のないことが、かなしいような、ほっとするような。今夜はこどもたちが大根びきしてきた源助大根をふろふきにしてもらい、柚子味噌で。一年前の冬は安房直子「ふろふき大根のゆうべ」を読んだらたまらなくなって、ふろふき大根をくるみ味噌で食べたのを思い出す。あとは、大好物の金時豆の甘煮をつくってもらった。

マザコン (集英社文庫)

マザコン (集英社文庫)

 

ト。

空を蹴る p7-32 
雨をわたる p33-58 
鳥を運ぶ p59-84 
パセリと温泉 p85-110 
ザコン p111-134 
ふたり暮らし p135-165 
クライ、ベイビイ、クライ p167-197 
初恋ツアー p199-225

どの母と子の像にも自分がちらちらして、つらい。

おとうさんは、はっきり言ってマザコンだった。好きな食べものをきくと、かきもちと言っていたのが、一度、すまこ(ばあちゃん)が口の中で柔らかくしてくれたたくわん、と漏らしたことがあって、母となった中年の娘が耳にする発言としてはかなりゲロゲロものだったのだけれど、甘ったれた本音だったと思う。自分はといえば、マザコンでもありファザコンでもあり、兄妹にも学歴にも容姿にもとにかく自分というものに果てしないコンプレックスがあることに気付いてしまう。

パスタぎらい

げんちゃんの熱がさがって二日たち、予定より遅れて実家に帰ってきた。おとうさんの四十九日には間に合わなかった。これまで「だめじゃない男はだめだ」と思ってきたけれど、齢四十を間近にして、だめじゃない男はだめじゃないのでは?ということについに気づいてしまった。むしろだめじゃない男がだめな自分がだめだった。しかしだめんずから足を洗える気がしない。だめじゃない男は圏外で、だめな男はやっぱりいかんので、どうにかして自分でやっていくしかないのかもしれない。わたしの愛が正念場を迎えている。

M-1グランプリがものすごくよくて、二度見。決勝三組がどれも安心して身を委ねられる抜群のふぉもしろさだった。

パスタぎらい (新潮新書)

パスタぎらい (新潮新書)

  • 作者:ヤマザキマリ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/04/17
  • メディア: 新書
 

ト。

フィレンツェの絶品「貧乏料理」、シチリア島で頰張った餃子…。イタリアに暮らして35年の著者が、胃袋で世界とつながった経験を美味しく綴る食文化エッセイ。フジ日本精糖株式会社ホームページ連載を加筆し書籍化。

タイトルに惹かれて予約。うちにパスタぎらいがひとりいて、なかなかパスタを食べる機会がない。思い出のパスタは、学生のころに通った店で、下北沢の極太麺のスパゲティ。いまも店はあるらしい。あのスパゲティは何ミリだったんだろう。ふいに懐かしくなって、お店に売っているなかで一番の2.2ミリの麺を買ってきた。

たやすみなさい

週明けにせいちゃんにインフルエンザの診断がくだり、 高熱でふらふらでひとりで寝るのを不安がるので、ベッドの傍に布団を敷いて寝たけれども、なんだか自分も咳が出るなと思ったらその咳が関節にやたらみしみし響き、床が固くて関節が痛むのかと思いきや枕元の体温計で熱を測ったら37度で、あわてて階下におりてセイちゃんに処方されたリレンザを吸った。スポドリを水筒につくって枕元に持ち込み吸う。翌日の丸一日をソファで厚い毛布にくるまりながら、せいちゃんとげんちゃんとうとうとしながら熱は37度と38度をいったりきたりするのをやり過ごし、なんとか次の朝には痛みが取れて峠を越した。暇つぶしに、M-1グランプリを2年分、ジュラシック・ワールドGODZILLA宇宙戦争をみて過ごす。小3男子はハリウッド映画の展開のすべてにちゃちゃを入れてきてうるさいのだけれど、びびってひっついてきて、びくびくしてるのがかわいかったりもする。胃にくるインフルエンザなのか、せいちゃんはすっかり痩せ細り、シュークリームを半分も食べられない。ふたりでフレンチトーストを焼いてクレイマー、クレイマーしたけれど、やっぱり残した。いけなかった忘年会をふたりでやろうといって、はま寿司で握り寿司をつくってもらい、ケーキとプリンを買って、お寿司をつまんでいたらげんちゃんのおでこが熱くなって、あわてて診療している小児科をさがし、小雨の降るなかを自転車をとばしていく。87歳のおじいちゃん先生が受付からなにからひとりでやっており、震える手で診察をし処方箋を書いてくれた。話好きな先生で、待合室にあるベビーベッドはどこそこの医大をでてどこぞの院長をやっている息子が50年前に使ったものだという話に始まり、娘の名前はおばあちゃんふたりから一文字ずつとったことや、林修が東大生にはキラキラネームがいないといっていた話まで、話の合間に処方箋を書いているその手は震えている。タミフ、で、なかなかルを書いてくれない。もどかしいような、しかしちょっとおもしろがってしまう。なにより待合室の壁紙がとてもかわいいうさぎ柄だった。達筆のタミフルの処方箋をキリン堂薬局にだして、やたら待たされてタミフルドライシロップ2日分を受け取り、帰宅して真っ先に飲ませたけれど、ぐんぐん熱が上がって39度をこえ、ぐずっておっぱいを吸ってうとうとしている。体の芯は熱いのに手足は冷たくて、亡くなる前のおとうさんを思い出してしまう。

たやすみなさい (現代歌人シリーズ27)

たやすみなさい (現代歌人シリーズ27)

  • 作者:岡野大嗣
  • 出版社/メーカー: 書肆侃侃房
  • 発売日: 2019/10/13
  • メディア: 単行本
 

ト。

もう一軒寄りたい本屋さんがあってちょっと歩くんやけどいいかな なにげない日常に潜む奇跡を、琥珀の中に永遠に閉じ込めてしまうような作品の数々。ポップスのように、映画のように、アクチュアルな歌集。

 バグのように人生に訪れるささやかな奇跡を掬い上げてくれる短歌。わたしに見えなかったものを見えるようにしてくれる。透きとおった光に触れるみたい。