まみ めも

つむじまがりといわれます

溺れゆく者たち

溺れゆく者たち (BOOK PLUS)
こないだ一日ふらふらと出歩いたあとでむらさきがないことに気が付いた。むらさきというのは、もう十年ちかく前になるかしれないが、どこぞのユザワヤにいったときにフリースのもけもけした生地を1mばかり裁ってもらった紫色の布地で、冬になるとマフラー替わりにぐるぐる巻いている。絹の混じったビーズや刺繍やの手の混んだストール、ばあちゃんが昔せっせとこさえたというかぎ針編みの巻物なんかもあるが、結局このずるずるした布地が一番あったかく、またしっくりする。なくなったと筈氏に告げたところ、寄ったところを思い出し電話番号を調べろという。千円もしないような品なので億劫になっていたら、君には思い入れがないのかという。ウーンといっていたら、むかし、デートをしたときにわたしがむらさきを巻いていたら、マミチャンむらさき色が似合うねと彼がいったらしいのを、どうやらわたしはしつっこく覚えていて、再会したときに得々と話してきかせたそうなのだが、すっかりわすれていた。それで、最後に寄ったバーガーショップがあやしいと思って電話番号を検索、筈氏にメールしたところものの数分で見つかった。しごと帰りに寄ってたずねたら、紙袋のなかから店員が取り出してくれた。息子のよだれや鼻水もついているような代物だが、鞄にしまいこんで大事に持って帰った。ぐるぐると巻きつけるとあたたかく、しっくりするので、この度かつて褒められたことも思い出したことであるし、なんとはなしにウキウキした気分になって、その日の夜はテレビを眺めながら膝掛けにしてやった。きっと十年後も、さらにずるずるになったむらさきを巻きつけていると思う。
毎度ながらブックオフで¥105。滅多に文庫以外のペーパーバックを買わないのにこの本を買ったのは、表紙に貼ったシールに池内紀がまとまりのない筆跡でコメントをのせていたからだった。
「人生の奥深いミステリ、何という才能だろう。」
池内紀が何者であるかよくは知らないが、カフカの翻訳はたしかこの池内紀という人で、わたしはカフカが好きなのか池内紀の訳文が好きなのか、とにかく池内紀訳のカフカはすごくよい。ちくま文学の森の編集にも名前があったような気がする。しかしこの小説はいかんかった。ある殺人をおかした老人が自分の人生を回顧するという内容なのだが、わたしはドラマティックもロマンティックも好まない。途中で展開も読めてしまい、つまらないので早く読み終わりたくて必死で読んでいたら、おもしろいのと訊かれた。つまらんと答えたら笑われた。