一月場所の中日であった日曜日、国技館に足を運んだ。はじめて生でみるお相撲は、土俵がぴかぴかと眩しく、異形の大男が尻をさらし、独特の装束、めくるめくカメラのフラッシュ、しきたりや時代を超越した異世界が眼前にひらけているのだった。力士のからだのさまざまにも溜息が出てしまう。白鵬関なんて、ちょっと白鵬さまって呼びたいぐらい風格あってうつくしかった。升席に陣取って、フクちゃんに乳をくれたりしながら、国技館のやきとり、崎陽軒のシウマイ、ポップコーン、さんざんに食い散らかし、やんややんやと応援するたのしさといったらない。隆の山関の勝利の瞬間がその日一番場内を湧かせた。セイちゃんが贔屓の琴欧洲関は無事に勝利をおさめ、セイちゃんはおおよろこびして万歳をやった。帰り際に琴欧洲のちいさなキーホルダーを買った。わっと駅にむかう人波に辟易し、一駅ぶんを歩く。冬の夕闇、空気が冴え渡り、スカイツリーのつめたい光とトンガリ具合が熱狂のあとに心地よかった。
- 作者: 村田喜代子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1998/01
- メディア: 単行本
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ワープロの文字について、
電気の箱のコマは、クルクル動いて生きものみたいだ。だが、手にはついに触れえぬモノたち。その実体のなさ、希薄さがなんとも不憫な気がする。
といったり、
保険に入ってみて、
はつなつのゆふべひたひを光らせて保険屋が遠き死を売りにくる
死はまだ遠く影は薄いが、この彼方の贈り物に情愛をこめて、いつか誰かに渡そう。
といったり、
独特の感性がちっともいやらしくなくて心地よい。障子から透ける光のようなしなやかな感性。蟹女も、トイレの連作小説も、そのうち読んでみたい。