週末からフクちゃんの咳がひどく、夜じゅう咳き込んでくるしそうに泣く。セーターに上着を着せたフクちゃんを抱っこしてコートに袖を通し、妊婦のときに使っていたケープでフクちゃんごと前を留め、さらにマフラーで包んだうえに斜めがけの鞄をかけて、みごとに着膨れてクリニックへいく。ピューピュー風がつめたい。クリニックでは、筍のように一枚ずつ脱いで、診察が終わるとまた順々に着込んで筍になり、家に帰るとまたひとつずつ脱いで、コートをクロゼットにしまい、フクちゃんをおろすと心底ほっとする。飲み残しの冷えたコーヒーを飲んで、フクちゃんを今度はおんぶして夕飯のしたく。午後は昼寝するフクちゃんのとなりで本を読みながらうとうとする。日差しだけはだいぶ春めいてきた。春がくるのはうれしいが、ほんの少しアンニュイが混じる。
読みたい本をiPhoneにリストアップしていて、あるときパソコンと同期したらメモがどこかへいってしまった。きっとパソコンとiPhoneのどこかに(ひょっとするともっと別のところに)あるんだろうが、バミューダポケットに落ちてしまったような気がして、あえて探そうとも思わない。そうするうちにまたするするとリストは伸びていく。そのなかの一冊を図書館で予約。
- 作者: 河盛好蔵
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1994/10
- メディア: 文庫
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あとは「ひっくりかえるワルツ」という出し物に関する記述を読んだら、胸がどきどきしてきた。
「ひっくりかえるワルツ」と題するもので、最初二人が仲好く滑稽な会話を交わしているが、そのうちに口論になり、ミスタンゲットが腕をふりまわして、三十回近くシュヴァリエの頬ぺたを撲りつける。それから二人の踊りになり、彼らは抱き合ったまま、椅子やテーブルや食器棚をひっくりかえして踊りまわり、絨毯の上を転げまわり、最後に窓から飛び出してしまう、という芝居なのである。これは大いに受けたが、彼らが毎晩、絨毯の上を抱き合って転げまわっているうちに、いつのまにか二人はいい仲になってしまった。
こういうのを読むと、パリはとてもきらきらした宝石のような街に思える。実際はこういういきいきした風物はほんの一部で、トイレはきたないし、ごはんもたいしておいしくない、でも、あの鉄の塔のそばをセーヌが流れ、ショコラとコーヒー、古本のやけたページ、くすんだ色が似合う街並みに、いつかまた立ってみたいとおもう。パリは、なんたって世界中の憧れを集めた街なので、それだけでやっぱりきらきらするんだろう。