育休のあける二日前の水曜日、神楽坂にいく。おなじく育休のあける友人とフレンチを食べる約束なのだった。早めについて、歩道のベンチで本をぺらぺらやる。風がビュービュー吹いている。鼻水がやたら出る。
- 作者: 安部公房
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1970
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昨日の中に今日があるように、今日の中に明日があり、明日の中に今日があるように、今日の中に昨日が生きている。そんなふうなのが人間の生活だと教えられ、彼もまたそれを信じてきた。しかし戦争の結果はそうした約束をばらばらな無関係なものに分解してしまったのだ。
(中略)もう二度と帰ってこない昨日、まだ見たこともない明日、その間にはさまれた今日の意味を、どんなふうに思ったらいいのだろう?
そのドアの表には希望と書いてあり、しかし裏には絶望と書いてあったのかもしれない。ドアとはいずれそんなものかもしれないのだ。前から見ていればつねに希望であり、振向けばそれが絶望にかわる。それなら振向かずに前だけを見ていよう。
なんだかこれだけで胸がいっぱいになるような描写だが、戦争孤児となった少年が日本をめざしてとことん振り向かずにガンバル話で、ものすごくおもしろく、ぐいぐい読んだあとはコテンパンに打ちのめされるようだった。安部公房、まじでかっこいい。惚れた。