宿六がねこんでいる間は、仕事と育児におわれ、こどもが寝たあとは気の抜けたようになって、家のことをやる気になれず、ぺらぺらと本ばっかり読んでいた。風呂の湯をあたためなおし、こどもが泣いたときにわかるように浴室のドアをあけて、階段に通じるドアも開け放し、給湯器がうなる音だけを聞きながら、ひさしぶりの風呂読みで憂さを晴らそうとしていたのだと思う。風呂からあがったら、コップにいも焼酎を一杯だけ飲んで、洗濯機の予約をいれ、そのまま蒲団にはいって寝た。風呂読みも、酒も、好きだが、それにしてもつまらんなあとそればっかり思っていた。
- 作者: 吾妻ひでお,新井素子
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/08/25
- メディア: 文庫
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時々ーー若い頃には、あるのだと思う。未来は漠としていて、でも、漠としているからこそ、どこまでも開けていて。自分は本当に何でもできて、どこまでも遠い処へゆけるのだという確信が、心の中にうまれる時が。あとで思い返した時、記憶のひだの中に埋もれていても、そこだけよく判る、すぐ思い出せるという瞬間が。川原はどこまでも、どこまでも広がり、山の稜線は視界から消え、世界の中心に一人で立っていると思える瞬間が。