まみ めも

つむじまがりといわれます

現代日本のユーモア文学2

晦日。山をおりて江ノ電に乗り、デパートでおつかいを済ませてきた。うらうらと陽射しがあり、江ノ電の車内からは江ノ島と富士山、海が午前の光をきらきら反射し、獅子舞の間の抜けた笛の音がきれぎれに届き、海にうかぶサーファーたちはプカプカするばっかりで、立つ気配もなく、気づいたら暮れてゆく年の瀬。電車の中のあたたかさで恍惚としてデパートのエスカレーターを降りたら、地下の食品売場は晦日の買出し人でごった返しており、ただでさえ単価の高いデパートが、歳末で値上りして闇市のようになっているというのに、用事のある人たちのなんと多いことだろう。肩身せまく、頼まれた銘柄の苺だけを選び、袋にいれてもらった。ふだんの家族四人の一日の食費より高い苺は、宝石のような輝きでこちらを威圧する。食べてやるから、待ってろよ。帰ってから、もぐらに掘り返された庭で少し遊び、お昼を済ませ、こどもたちは奥の和室で昼寝納め、わたしはひとり台所でインスタントコーヒーを飲みながら読み納め。大晦日もなんてことない一日で終わる有難さ。来年もなんてことない一年でありますように。

「おとしばなし堯舜」「おとしばなし和唐内」 石川淳
「笑われた」「まずミミズを釣ること」 開高健
「俗謡雪おんな」「四行詩」 佐藤春夫
「雪国・またはノーベル賞をもらいましょう」 和田誠
「鬼坊主の女」 池波正太郎
「月の好きな男」「このへん」 谷川俊太郎
「ジャック・カサノヴァの巻」「無頼の英雄」「遅日」「とうがらし」 獅子文六
「モッキンポット師の三度笠」 井上ひさし
「初代の女」 飯沢匡
「酒宴」「饗宴」 吉田健一
図書館本。和田誠にやられた。いろんなひとの似顔絵に寄せて、「雪国」の冒頭部を文体模写。たっぷり笑わせてもらった。吉田健一の饗宴は、とことん食べる妄想が花開くワンダーランドだが、酒宴もまたよかった。

理想は、朝から飲み始めて翌朝まで飲み続けることなのだ、といふのが常識で、自分の生活の営みを含めた世界の動きはその間どうなるかと心配するものがあるならば、世界の動きだの生活の営みはその間止つていればいいのである。庭の石が朝日を浴びてゐるのを眺めて飲み、それが真昼の太陽に変つて少し縁側から中に入つて暑さを避け、やがて日がかげつて庭が夕方の色の中に沈み、月が出て、再び縁側に戻つて月に照らされた庭に向つて飲み、さうかうしてゐるうちに、盃を上げた拍子に空が白み掛つてゐるのに気付き、又庭の石が朝日を浴びる時が来て、「夜になつたり、朝になつたり、忙しいもんだね、」と相手に言ふのが、酒を飲むといふことであるのを酒飲みは皆忘れ兼ねている。

「夜になつたり、朝になつたり、忙しいもんだね、」なんていい言葉だろう。この台詞を言うためだけにお酒を飲みたい。