里帰りも残り一週間になり、土曜の夜は近くの親戚を呼んで宴会をした。総勢22人で賑やかだった。足元の覚束ないばあちゃんも杖をついてきてくれた。ふーたんが泣いたので、抱きあげると、手を膝のうえにひろげて、おいでおいで、という、そこにのせるときに、ばあちゃんの口からにおいがした。13年前、じいちゃんが死ぬ前の夏休みに、入院している病院にお見舞いにいったときに、じいちゃんの口臭がにおったことを思い出す。におい自体はすぐに忘れてしまうけれど、口臭をかいだことはずっと忘れない気がする。もっと、覚えておくべきことはほかにもたくさんありそうなのに、記憶のひだに垢のように残っていくのはディテールばかりで、だれに話すでもなく、わたしの頭のなかでだけいとしい形にまるまっていく。
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「すべて芸術は表面的であり、しかも象徴的である」
「芸術が映しだすものは、人生を観る人間であって、人生そのものではない」