まみ めも

つむじまがりといわれます

怪談

ここのところ、朝、玄関を出て門を開けると、ちょうど遊歩道を歩いて出勤するサラリーマンに出くわすのやけれど、この人が、この世の憂鬱をすべて引きずるように足をずりずりと運んでいる。絶望が歩いているみたいだ。あまりに足を引きずるので、段差もなにもないところでつまづいていたりする。いや、ひょっとしてこの絶望さんは孫悟空みたいに重い靴やスーツを着込んでいて、いざ地球のピンチなんかがきたときにはドスッと脱ぎ捨ててものすごい俊敏さで敵に向かっていくかもしれない、その節はお願いいたします、と心の中で思って絶望さんを追い越して足早で駅まで向かう途中で、もうひとり、今度は若手の絶望が服を着て向こうからあらわれた。絶望だか希望だかはわからんので、とりあえずなんかあったときはこの人たちがここらへん一帯を守ってくれるにちがいないと思うことにした。おつかれさまです。絶望の朝は早い。

怪談  東宝DVD名作セレクション

怪談 東宝DVD名作セレクション

プ。1965年。

小泉八雲ことラフカディオ・ハーンによる怪談を、巨匠・小林正樹監督が壮大なスケールと映像美で映画化。夫に捨てられた妻の情念を描く「黒髪」、人間の男と結婚した雪女のつかの間の幸せと悲しみを描く「雪女」、平家の怨霊に取りつかれた盲目の琵琶弾きを描く「耳無し芳一の話」、茶わんの中に映った見知らぬ男が後に目の前に現れる恐怖を描く「茶碗の中」の4編で構成されるオムニバス巨編。カンヌ映画祭審査員特別賞受賞。

怖さというより底知れないうつくしさがそくそくと迫ってくる。映像も音楽もぴーんと張りつめていつまでも取り憑かれていたいような世界。なかでも耳無し芳一の琵琶弾きと声がとてもよい。実験のときに使うピペットマンの容量を合わせるときに、ちょうど琵琶を抱えるような形になるので、そのたびになんとはなしにうっとりした気持ちがこみあげてべべんと弾いてやりたくなる。