まみ めも

つむじまがりといわれます

ぼくの死体をよろしくたのむ

セイちゃんの描いた絵がコンクールで市長賞をとって、日曜は表彰式、けれども、セイちゃんは熱が続いてとても外には出られんので、かわりにいってきた。セイちゃんの描いた絵はギャラリーに展示されていた。兄妹3人がはぶらしをもって、ピンクの服のはきっとフーちゃん、四角いラジオをさげてみんなでにこにこ音楽をきいている。絵本の一場面のような賑やかで愉快な絵で、文字が入っていない。セイちゃん、とてもいい絵を描いたなあと思って、ギャラリーで泣きそうになってしまった。セレモニーをみて、粗品と表彰状を受け取って、雨と風でくたびれたので途中のコンビニであったかいカフェラテを飲んでから、帰った。セイちゃんは夕方になって全身に蕁麻疹がひろがり、夜はまた熱があがり、今朝になっても蕁麻疹がひかないので、クリニックにいき、薬をもらって飲んだらよくきいて、ぐっすり眠っている。クリニックにいくとき、疲れて歩けなくなったセイちゃんをおんぶして坂道を下る。セイちゃんが、背中で、かーかん、と呼んでくる。甘えたときの呼びかた。かーかん、おおきくなったら、いっぱいおしごとして、おおきなおうちをつくるから、いっしょにくらそうね。坂の上から、新幹線がすーっと走っていくのが見える。あと何回、こんなふうにセイちゃんをおぶって歩くことがあるだろう。いろいろやりきれない思いを味わって気持ちがぺしゃんこだったけれども、わたしはわたしにやれることを地味にやっていこう。

ぼくの死体をよろしくたのむ

ぼくの死体をよろしくたのむ

ト。

彼の筋肉の美しさに恋をした<わたし>、魔法を使う子供、猫にさらわれた<小さい人>…。恋愛小説からSFまで、ジャンル分け不能な、奇妙で愛しい物語全18篇を収録。『クウネル』『つるとはな』等掲載を書籍化。
鍵 p7-18
大聖堂 p19-32
ずっと雨が降っていたような気がしたけれど p33-46
二人でお茶を p47-59
銀座午後二時歌舞伎座あたり p60-73
なくしたものは p74-86
儀式 p87-94
バタフライ・エフェクト p95-109
二百十日 p110-123
お金は大切 p124-137
ルル秋桜 p138-152
憎い二人 p153-167
ぼくの死体をよろしくたのむ p168-181
いいラクダを得る p182-196
土曜日には映画を見に p197-210
スミレ p211-218
無人島から p219-235
廊下 p236-251

川上弘美のおはなしは、読んだそばからすーっと消えていく印象の薄さに品があるところがいい。落雁みたいに余韻がはかない。