まみ めも

つむじまがりといわれます

(056)祈

いつのまにか師走。週末、街に出ると、どこもかしこもクリスマス。浮かれている街につられて、珍しくイヤリングを買った。やすい雑貨屋で、590円ぽっち。偽物の小粒のパールが雪の結晶のように配置されている。ほんのちょっとだけ、顔のまわりが華やぐ。休みの日、なんでもない服を着ているときに、ときどき、イヤリングをつける。それくらいでいい。それから、Uに寄ってモンブランを買った。秋の間しかでないモンブラン葉加瀬太郎の頭みたいにマロンクリームがちりちりになっている。ガトーバスクも買いたかったけれど、売り切れでなかった。

(056)祈 (百年文庫)

(056)祈 (百年文庫)

ト。

盟友の娘の婚礼に出席した池田は、人生の花盛りを知らずに夭折した姪・柚子を思うと無念でならない。しかし、生前の柚子には叔父に隠し通したある秘密があった(久生十蘭『春雪』)。辛く惨めなお屋敷勤めを「明日こそ!」飛び出してやろう、と夢見る住み込みの家庭教師オルガ(チャペック『城の人々』)。医学士ソロドフニコフは、突如、見習士官ゴロロボフに科学的には解決できない難問を投げかけられる。二人の議論から導かれた究極の答えとは(アルツィバーシェフ『死』)。手の届かぬ場所へ、願いを捧げ続ける人々の物語。

このあいだ、電車が遅れて、慌しく帰る駅の階段ですこし前を行く人の足どりがふと目に留まった。両手に底の広い紙袋をさげていて、どうやら右手に花、左手にケーキを提げているらしかった。一歩一歩を、ていねいに、階段をおりていく。きょうはなにかの記念日なのだろうな、誰も彼女にぶつかりませんようにと背中に祈る。
倒れないようにケーキを持ち運ぶとき人間はわずかに天使/岡野大嗣
でも、ほんとうは、世の中のあらゆる人みんな、花やケーキを抱えているのだ。というのは祈りに近い想像。