土曜日が今年一番早い日の入りで、とにかく冷え込む雨の一日だった。編みものの本を眺めていたらむらむらきていてもたってもおられなくなり、編み棒と毛糸を買いこんで、編み始めてしまった。生成りのアルパカの糸で模様編みに初挑戦している。ビールを飲みながら目数をまちがえてしまい、なん段かほどいてやり直したり、ところどころ怪しいところもありながら、だんだん調子に乗ってきた。サザエさんで、編みものにとりかかるサザエが、家族の人数ぶんの折り詰めの弁当を買ってきて、やるわよーといって台所仕事を放り出して編みものをやってたっけ。サザエの気持ちがよくわかる。
ト。
40歳を目前にして、人生のイベントベストテンを自虐的に並べてみれば、我が身には25年間、なにも起きてはいないのだ。年相応の達成感も充実感もない日々に愕然としながら、私は岸田有作に会いに行く。13歳の夏に恋をした相手に――どこにでもある出会いが生み出す、おかしくいとしいドラマ、全6篇。
「登場人物たちと同じ行く当てのなさを僕自身も抱え込んでいる。」――<イッセー尾形「解説より」>
床下の日常
観光旅行
飛行機と水族館
テラスでお茶を
人生ベストテン
貸し出しデート
倒れないようにケーキを持ち運ぶとき人間はわずかに天使 /岡野大嗣
なんだけど、ケーキと花束をかかえた男は天使ではなくてストーカーにされてしまってる。やってることはストーカーなんだよな。自分の気持ちにまっすぐで、よっぽど純粋なんだけど。人生のままならなさよ。