まみ めも

つむじまがりといわれます

機械のある世界(ちくま文学の森)

機械のある世界 (ちくま文学の森)
引力の事(福沢諭吉)/私の懐中時計(マーク・トウェイン)/時計のネジ(椎名麟三)/メカに弱い男(サーバー)/自転車日記(夏目漱石)/瞑想の機械(ボンテンペルリ)/怪夢抄(夢野久作)/シグナルとシグナレス宮沢賢治)/ナイチンゲールアンデルセン)/両棲動力(A.アレー)/栄光製造機(ヴィリエ・ド・リラダン)/流刑地にて(カフカ)/To the unhappy few(渡辺一夫)/メルツェルの将棋差し(ポー)/金剛石のレンズ(F.オブライエン)/フェッセンデンの宇宙(E.ハミルトン)/実験室の記憶(中谷宇吉郎)/操縦士と自然の力(サン・テグジュペリ)/軽気球(ラーゲルレーヴ)/蓄音機(寺田寅彦)/天体嗜好症(稲垣足穂)/夢みる少年の昼と夜(福永武彦
ちくま文学の森シリーズを読み終えたあとでは、スピンを気に入った小説のはじまる部位に戻すのが常になっているわけだけれども、この巻は読み終えたあとで悩んでしまった。時計のネジ、メカに弱い男、自転車日記は機械に摩滅させられる人間の姿があんまり滑稽でおもしろいし、宮沢賢治アンデルセンの相変わらずなドリーミーぶりも童貞臭くていいのだが、と逡巡したあとで、カフカに決めた。好悪の問題にあらず、カフカは圧倒的なのだった。ある旅行家が旅先で処刑に立ち会うという物語で、その処刑のさまが異様で、体に延々と判決文を刻まれ、口には粥を補給されながら、じわじわと処刑される、端的にはそういう突飛で奇抜な内容。ただし、その奇抜さがただ奇を衒っただけに終わらずにある種のリアリティを伴っているのが、カフカの非凡たるところ。こんな突飛な処刑のどこにリアリティがと、思うが、具体的のところではなくて処刑という行為のもつ構造の問題にあるんだろう。こんなにとんがった筋書きなのに、普遍が潜んでいる。読み終えたあとで石を飲んだみたいにずしんとする。けして心地よい物語ではない、読後感だって重いけれど、それでもスピンはカフカに戻る。傑作ってこういうどうにもならないパワーのある文学をいうのだと思う。カフカは凄い。Yonda?の文豪ウォッチにカフカがあったら、今なら迷わずカフカ