友もなく、女もなく、一杯のコップ酒を心の慰めに、その日暮らしの港湾労働で生計を立てている十九歳の貫多。或る日彼の生活に変化が訪れたが……。こんな生活とも云えぬような生活は、一体いつまで続くのであろうか――。青春に渦巻く孤独と窮乏、労働と痛飲、そして怨嗟と因業を渾身の筆で描き尽くす、平成の私小説家の新境地。
実家の本棚から拝借。猫も杓子もブログの時代の私小説が芥川賞受賞とはいかにと期待した、けれども。チョット物珍しい人生、そこから生まれたルサンチマンが独特の文体を形成したのだとおもうが、読んでいて段々いらいらした。同録の落ちぶれて袖に涙のふりかかる、を読み終えたあとでは芥川賞はこの作家にむけた強烈な批判、アイロニーにも感じてしまう。どうせなら中上健次を読みたいなと思いながら本を閉じた。でも、中上健次を読むときには相当な覚悟がいるので、おいそれとは読めない。覚悟がたりないと打ちのめされてしまう。中上健次はおそろしい。
きのう浦和に戻った。デパートがすこし薄暗かったり、コンビニの陳列棚にすきまが目立ったり、これまでとはほんの少しずつ様子がちがう。パラレルワールドにきてしまったような違和感。あの日以来、世界が形を変えてしまったなあとおもう。夜はほの暗い部屋でサッカー観戦。カズのゴールに胸が躍った。カズのかっこよさ、中高生のときはちっともわからなかったが、まじでかっこいいと今は思うのが不思議。こうやって好きなものや人が増えていくのは、年を重ねるたのしみだなあ。好きなものはひとつでも多いほうがいい。浦和で育った筈氏は、ホテルで待ち伏せし、バスに乗り込むカズを間近でみたことがあるらしい。筈氏によると、香水だかなんだかしらないがカズは本当にいい匂いを漂わせるらしい。一度でいいから嗅いでみたいような、もったいないから知らないままでいたいような。