まみ めも

つむじまがりといわれます

中くらいの妻

中くらいの妻―ベスト・エッセイ集〈’93年版〉 (文春文庫)
実家にいる間に、一度だけ母にブックオフまで乗せてもらった。チャイルドシートの息子に別れ、母がよそで用事をすませる迄の制限時間三十分、¥105単行本コーナーのまえに立つ気持ちはやたらわくわくする。前のめりになりそうな気持ちをぐっと堪えて、右上から背表紙を順に眺めていく。小松のブックオフにも、ダークストーリーオブエミネム紀香魂トリオリズム等々、北浦和ブックオフとおなじ顔触れが鎮座しているのに感心しつつ、エミネムも紀香も叶姉妹も毎度なんとなく気にはなるもののやっぱりスルーを決め込んで三冊えらんで店を出た。チャイルドシートでちんと座っていた息子は、車に戻ったわたしの顔をみて、思い出したように泣いた。

プロ、アマを問わず、一年間に発表される膨大なエッセイの中から洗練され、滋味豊かな短文の粋ばかり六十二篇を集めたアンソロジー

ベストエッセイ集も、実は、他年度のものが北浦和ブックオフにあったのを、先に買って、浦和の家の本棚に待たしてある。今回小松で買ったのは93年度版。名の知れた作家のかたもあれば、本業のエッセイストしかり、主婦もあるし、半分死んだ人友の会会長という奇天烈な肩書きの人まである。もちろん内容もさまざまで、荷風がパパラッチされる話、エジプトで鰻がとれる話、きらなくていい胃を切除された話、外交の場で日本には猿がいるんだぞと言って相手をびびらせる話、云々。ものすごいのは、ケニアで現地のひとが頭痛がひどいときに瀉血する話で、息の根がとまらない程度に首をしめて血管を怒張させたところのこめかみに矢を射って血を抜くなんてことが書いてあっておののいてしまう。また、エッセイを通じて93年という時代もみえてくるんであって、ワープロワープロとところどころで出くわして、そうだなあ、中学生のときはインクリボンをセットしてワープロで手紙を作ってみたっけと懐かしく思い出す。あの当時は知らなかった93年という世界に生きていたひとたち、そのとりどりの日常を、二十年ちかく隔てたいまになって本のなかで擬似体験してみるというのもオツなもの。