まみ めも

つむじまがりといわれます

白い手

白い手
椎名誠はやたらアウトドア派なところが気に食わず読んだことがなかった。基本的に根暗なので、小説にしろ映画にしろ冒険という単語がでてくるとなんだかお呼びでないと感じてしまう。それでも何年かまえに川べりでテントを張って釣りをしたのはたのしかった。といってもわたしは釣竿を握ったかどうかもあやしい。しごとのあとで都内に出て、車に乗せてもらって車内でコンビニ飯と発泡酒をやり、あれは静岡だったとおもうが河原についたのは夜更けだった。それからこの日のために買ったテントを組み立てたのだが、車のヘッドライトの明かりで説明書を紐解くのに、三人して頭をならべて模式図を回転させたりと見こう見しているんだから埒があかない。男子ふたりはおっとりとした文系おとこで、結局は地図もよめないわたしが指図して組み立てさせた。翌日は雨も降りさむかったので、テントのなかでほとんど寝て過ごし、飽きたら川っぷちの様子をのぞいたり本を読んだり、ときどきそこらの草叢にかくれて小水をたれた。その日の夜は雨もあがったので河原でしけた木ぎれを拾い集めて焚き火をやったが、それがなによりたのしくて、火のうつくしさにわくわくときめいてしまった。あんまり愉快すぎてそこらに落ちていた看板のたぐいもなんでもかんでも放り込んで燃してやった。つぎの朝には鮎釣り名人があらわれ(釣り業界にはハンドルネームの類が存在し、そのひとは河童とよばれていたが素姓はしらない)、われわれが二日かかって十尾もとらないところを、河童氏は一時間あまりで何十尾も釣り上げるので感心した。その日の午後に河原を発ってサーヴィスエリアで焼きそばやアイスクリームを頬張って帰宅、二日ぶりにざんぶり浸かった湯は極楽そのものだった。それからまた焚き火をやりたいと思ってはいるもののなかなか実現しない。
白い手は、ブックオフで最初の頁をひらいたら同級生がうんこを漏らす話が載っていたので買ってみたのだったが、小学生のころの回顧録で淡々とした視線がこどものころの妙な冷徹さを備えていてリアリティがあった。