となりの家のおばあさんは、脚が悪いらしくふだんは滅多に顔を見ないが、ここのところ、すこし日和のよい午前中なんかは杖をついて家の前にでてきて、猫とひなたぼっこをしていたりする。通りすがりに挨拶をすると、ごめんね、目が悪いから気づかなくてと断ってから、あかちゃんの顔をみせてというのでしばらく立ち話。緑内障がひどく、手術もできないという話をきいて、合点したが、おばあさん、髪は真っ白にふわふわして、目は湖面のような色に澄んで、もこもこと着込み、たんぽぽの綿毛が一斉にとんでいる光景みたいな、みたことないが懐かしいようなちょっとしたファンタジーだ。きれいだなあ、でもなんか悪いなあとおもいながら、吸い込まれるみたいな眼球をチラ見してしまう。そのふたつの眼球のなかにいるだろうふたつのわたし。
- 作者: 柴田元幸,畔柳和代
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 1998/09/01
- メディア: 単行本
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柴田元幸編のアンソロジーはブックオフの105円棚から。赤子の寝ているとなりで老人の本を読みふける中年の図。あとがきで、「異人」としての老人、その老いをダシにして面白い小説を集めたと書いてあるとおり、ひとすじ縄ではいかない老人が次々登場して、すんごいおもしろかった。ちいさいころ、ばーちゃんの握ったおにぎりが異常においしくて、掌からなんかやばいもの(ハッピーターンのハピ粉に準ずる類の)がでとるにちがいないと思っとったが、やっぱりじーさんばーさんからはとても良い出汁がとれるのだとわかった。人生の苦味だとか、酸いも甘いもだとか、そういうもんではなくて、なにかといわれると、やっぱりファンタジーというひと言になるかもしれない。表紙の写真はサビーヌ・ヴァイス。