まみ めも

つむじまがりといわれます

ごちそう帳(新・ちくま文学の森)

逸題(井伏鱒二
食うえ物(国分一太郎
故郷横浜(獅子文六
母の好物縁日(池波正太郎
蜜柑の花まで(幸田文
ビスケット(森茉莉
枇杷武田百合子
山鳥夏目漱石
朝めし(スタインベック
愉しき昼食(上林暁
鱧の皮(上司小剣
鯛の妙味(深沢七郎
月にとび去る話(魯迅
ごちそう歌集(正岡子規若山牧水斎藤茂吉折口信夫岡本かの子火野葦平
食いしん坊より(小島政二郎
焼筍(青木正児)
冷や飯に沢庵(子母沢寛
焼豚論(ラム)
アンコウのドブ煮/相撲とフグ(坂口安吾
船の御馳走(内田百間
伊藤整氏の生活と意見より(伊藤整
酢豆腐桂文楽
茶粥の記(矢田津世子
饗宴(吉田健一
友人メリタルト(アポリネール
味(ロアルド・ダール
食卓の快楽について(ブリア‐サヴァラン)
失われた時を求めてより(プルースト
石川で武器よさらばの残り頁がすくなくなってきたときに、Amazonで買った一冊。一番おいしそうだったのはスタインベックの朝めし(どうやら大久保康雄の訳がすごく気に入っちゃった。冬の朝空にのこった星みたいにソリッドな翻訳。武器よさらばも大久保康雄訳だった)、だけれども、病気で入院中という状況でご馳走のお皿を次から次に空想する吉田健一の饗宴にスピンを戻す。たとえば、コットレット・ダニヨオ・オォゾマアル・トリュッフェ・オォズイトル・フリト・マロン・シャンティイ(これをiPhoneで打つだけで胃の腑がすいてるんだかふくれてるんだかとにかく妙な感じになり、眩暈がする)という、ネーミングだけでなくこしらえ方も迂遠きわまりない果てしないスケールの料理、なんたって豚の丸焼きがのるような皿で饗される、その説明をくどくどとやっておいたあとで、「こういうものの後でお茶漬を食べたらさぞ旨いだろうと思う。」とおそろしい真理でひっくり返す。ズコーって、思わず頭のなかで言ってしまう。
折良く、家にマドレーヌなるお菓子があったので、これはと思い、アールグレイのお茶をいれてプルースト気取りでマドレーヌの欠片をスプーンにのせ、アールグレイに浸して、ふやふやしたのを食べてみたが、わたしにはマドレーヌにまつわる思い出は一切ないんであって、なんら格別な感興はおこらないし、シチュエーションにわくわくしすぎて前のめりで吸い込んだせいでむせ返ってしまった。失われる思い出をもたないものの鈍い舌には、ぼんやりと甘い味が残った。