まみ めも

つむじまがりといわれます

作家の別腹

毎年恒例の下田行。こどもらが寝たあとでひさしぶりのひとり風呂に入る。陽のしたでは、からだの中にこもった行き場のない熅気を持て余しているくせに、ぬくい湯に浸かると、じわじわと浸みてくる熱に、わたしのからだは冷えていたのだなと気がついたりする。サウナにもはいった。サウナにいるあいだ、12分計と睨めっこしながら、毛穴のついでにチャクラがひらき、穴という穴から煩悩が流れ出すイメージを鍛えてみたが、結局のところ全開の毛穴から汗が噴き出しただけで、煩悩の密度は濃ゆくなってしまった。風呂からでて、ステテコとTシャツをつけたけだるい体をマッサージチェアに揉みしだいてもらう。リモコンに搭載された「そこもっと」ボタンを押すと、「ソコモット、シマス」とメカ音声が反応し、わたしの骨盤をギュウギュウに締めつけてくれた。毎年、そこもっとボタンを押すのがひそかなたのしみ。窓の外ではちいさな蟹が、泥をまるめてぱくついていた。冷水機の水を紙コップでがぶがぶ飲んで、煩悩を薄めておく。

作家の別腹  文豪の愛した東京・あの味 (知恵の森文庫)

作家の別腹 文豪の愛した東京・あの味 (知恵の森文庫)

油揚 内田百間
東京すし今昔噺 種村季弘
コロッケの巻 山本嘉次郎
ひるめし 吉岡実
徹夜交歓 色川武大
室町砂場 杉浦日向子
饗宴(抄) 吉田健一
幼少時代の食べ物の思い出 谷崎潤一郎
渋谷と目黒(抄) 池波正太郎
浅草 檀一雄
柴崎納豆 池田弥三郎
ある日(抄) 武田百合子
つくだ煮としぐれ煮の差について 荻昌弘
ピザ 星新一
涼しき味(抄) 獅子文六
東京のべつたら漬け 吉田健一
金瓶梅」に書かれたスタミナ料理 檀一雄
古き良き時代の匂う洋菓子 古波蔵保好
アップルパイのパイ 森村桂
越後屋 獅子文六
水羊羹 向田邦子
ぶどう餅 池田弥三郎
東京の菓子 三宅艶子
花見だんご 幸田文
ラムネ 1 吉行淳之介
甘納豆 松葉最中 中村汀女
シュウ・ア・ラ・クレェム 森茉莉
しるこ 芥川 龍之介
おこし 團伊玖磨
たいやき 安藤鶴夫
ホットケーキとフルーツ 池波正太郎
旅と味 あん玉論争 戸塚文子
お茶に落雁 赤坂虎屋黒川光景氏の話 子母沢寛
東京の煎餅 小島政二郎
国立ロージナ茶房の日替わりコーヒー 山口瞳
どっさり珈琲の粉を 植草甚一
図書館本。グレーテルのかまどというテレビ番組で、この中の向田邦子の水羊羹と池波正太郎のホットケーキの再現レシピがのっている。食べてみたいような、文字のうえに留めておきたいような。好きな食べものの話というのが、なんだか好きで、食い意地が張っているのもそうだが、好きな食べものの話をするひとの顔をみているとうれしくなっちゃって、いろんなひとに、どんな食べものが好きか、いままで食べたもののなかでなにが一番おいしかったか、きいてしまう。この本でも、みんな好きな食べものの話をしていて、やっぱり筆が踊っているようにいきいきしている。セイちゃんの好物は、なん度も確認したので、すっかり覚えてしまったが、やきとり、おすし、餃子、ドーナツ、いちごのケーキ、すいかは種があって苦手だけれど、スイカバーは食べてみたい(一度、夕方のニュースでスイカバーの工場をみてから、憧れの食べものになった様子)。フクちゃんは、冷やしトマトが断トツ。ふたりとも好きなのはレーズンと納豆。わたしの好きなものは、チョコレート、パイナップル、プレーンオムレツ、きな粉にあずきに金時豆、米、本を読みながら飲むコーヒー。別腹ありまくり。食欲という煩悩は、死ぬまでわたしからなくならないだろうな。