まみ めも

つむじまがりといわれます

暢気眼鏡

連休はカレンダー通り。鼻水がずるずるといつまでもとまらない。花粉症疑惑がもたげつつある。

暢気眼鏡 (新潮文庫)

暢気眼鏡 (新潮文庫)


暢気眼鏡
芳兵衛
擬態
父祖の地
玄関風呂
こおろぎ
痩せた雄鶏
華燭の日
退職の願い
川崎長太郎のつゆ草というふにゃチン私小説短編集に尾崎一雄の話があって、尾崎一雄自身の、「俺は二十年来、女房の惚気を書いてきたようなもんでね」という開きなおったコメントが気に入って図書館で借りる。「どれもこれも、間抜けな良人と気のきかない細君が出て来て、ろくでもない日を送る小説」というのはこれまた本人のコメントの通り。こちらも私小説で、川崎長太郎よりは家族の体裁がととのっているが、たいへんな貧乏ぐらしで、とし若の奥さんは妊娠してからうまれるまで一度もお医者にかからず(そして下宿を追い出されて夜逃げ)、いざ出産という段になって陣痛のはじまった奥さんを産院に歩かせてから金策して産衣を買いにいく、そのあいだに産声があがっている。それでもふたりのらりくらりとしているのだが、そうかと思うと土手かどこかでちょっと凄くなってしまった奥さんを追いかけて殴りつける場面なんかは刃がきらりとするような危うさだビッグダディというのを、ちゃんと見たことないが、生活の筒抜けっぷりといい、崖っぷちの感じといい、たぶん似たようなおもしろさなのではないかと思う。尾崎一雄は病を得て痩せてしまい、娘にいわれたひと言でいじけたみたいに引退宣言するところもちっともビッグなダディではないのだが。玄関風呂は、浴槽を買って玄関に据え付けるという話だが、玄関で風呂にはいる、と聞いた井伏鱒二が、三和土に湯を張ると勘違いしたのか、「君とこの玄関は,随分たてつけがいいんだね」と言っているエピソードに和む。