フクちゃんが五時起きして、ねないので、フライパンでベーコンを油なしでじわじわやったところに卵をおとし、黄身を菜箸でつついて、へらでまとめ、レタスとマヨネーズと一緒トーストににはさんで、ラップにくるんだのを、お昼にもっていく。それから朝食のしたく。わが家はパンとフルーツとヨーグルトだけの朝食なので、フルーツを切って茶碗にいれるだけ。この日はバナナとオレンジとキウイフルーツとブルーベリーで、キウイのへたを落とすときに、つい親指の先も落としてしまい、キウイはけちけちと薄く落としたのに、じぶんの皮は気前よくやってしまい、みるみるうちに血が滲んで、そんなときに、フルーツやまな板が血に染まらないようにと焦っている自分を見つめている客体の自分と、指先のじんじんする輪郭がはっきりみえるような痛みの感覚。絆創膏が苦手なので、早々にとっぱらったが、三日たっても、トマトや玉ねぎの汁がしみてくる。指先で酸味を味わっている感じが新しくておもしろい。
林芙美子 巴里の恋―巴里の小遣ひ帳、一九三二年の日記、夫への手紙 (中公文庫)
- 作者: 林芙美子,今川英子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2004/11
- メディア: 文庫
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私は此男には少しまいつてゐるが、参る気持ちは素的だ。只それだけでいいのではないか、彼には妻君あり、私には愛する夫があるに、
こんだけあからさまなのはかえって気持ちがいいもんだ。そして次々といろんな男に参っていく。いやいや、振り回された男たちこそ参っちゃったにちがいない。