まみ めも

つむじまがりといわれます

バナナは皮を食う

把瑠都関引退のしらせを、知って、やっぱりさみしい。把瑠都の底抜けの明るい性質は、プロレスみたいな豪快でわかりやすい相撲の取り口とよく合っていて好ましかった。引退の会見で、「おすもうさんになっていいことばかりだった」と言った、その記事をネットで読んで、それがまた把瑠都らしい言葉なので、余計にさみしくなった。

昭和も遠くなりにけり 選考にあたって 檀ふみ/奥さまにヒゲのないわけ 扇谷正造/地獄極楽 田宮虎彦/陰陽の調和 平塚らいてう/わたしの生活から 天野貞祐/バナナは皮を食う 牧野富太郎/生きる智慧 里見弴/乱世の味 日夏耿之介/雛祭 米川正夫/無手勝流 野村胡堂/思い出の味 河原崎長十郎/味覚と人格の関係について 木下順二/カラハナ草 井伏鱒二/母の掌の味 吉川英治/空襲 佐多稲子/おにぎり抄 幸田文/哀愁と郷愁 サトウハチロー/ドンと弾丸と 辰野隆/贈物 高濱虚子/食物の好み 久松潜一/どんこ料理 火野葦平/すき焼の辯 今日出海/茶台ずしと黄飯 野上彌生子/しゃけの頭 石井桃子/自炊の話 阿部次郎/わが工夫せるオジヤ 坂口安吾/巴里の自炊 石井好子/泉よ、どこから 堀口大學/鵞鳥の焼肉 小宮豊隆/うまいもの 池田成彬/餃子のうまさ 木村荘十二/寒月君と喰べたソーセージ 武者小路公共/新しい星よりも 山本嘉次郎/十七字の味覚 和田信賢/わが衣食住 河盛好蔵/雑談 森田たま/わが母の記 佐藤春夫/お茶漬け 吉村公三郎/初代の店子 小倉遊亀/青とむらさきと白と 永井龍男/たくわん 渋澤秀雄/ハムチョイ 海音寺潮五郎/北京のつけもの 奥野信太郎/茄子の気持 草野心平
暮しの手帖の戦前戦後のコラムを集めたもので、タイトルにあるとおりバナナの可食部は内皮なのだとか(そういえばゲゲゲの女房ではまさしく外皮をたべる困窮エピソードがあった)、「ホップ畑のなかに雄花が咲くと、雌花が処女性を失って堕落する」(井伏鱒二)とか、ちょっとした食の雑学もたのしい。
気に留ったところを列挙しておく。
(おむすびを)上手に三角に結べるようになったとき、女らしさをひとつ身につけたようにおもったものだ 佐多稲子
白い飛び石のように、おにぎりは女の過去に散在しているのだ 幸田文
おむすびには、哀愁があります。ノスタルジアがあります サトウ・ハチロー
食べものの好みなるものも、しょせんは郷愁に過ぎない 小倉遊亀
愛情が根本になければエトセトラなどは生れてこない 草野心平
気になったレシピとしては、鈴木三重吉がやっていたという糠みそのサンドイッチ(糠みその大根をうすく切って、パンにはさんでたべるのがお好きであった)と、ビールでやる一夜漬け(あったかい御飯にビールをまぜて、その中へほそい胡瓜を一夜漬けにして、その胡瓜を冷蔵庫で冷やしてたべる)。吉村公三郎の、「ひや飯に熱い番茶をぶっかけてがさがさとかっこむお茶漬け」というのは、小学生のころの夏、半ドンで帰ってきたお昼に冷やご飯に冷たい麦茶でたべたお茶漬けに似たような感慨があると思う。結局は小倉遊亀のいうとおり郷愁に過ぎないのだが、冷や飯の麦茶漬けなんかは、愛情だかなんだか知らないが、エトセトラが芋づる式に呼び覚まされる予感がして、うっかり作って食べる気になれない。