月曜の朝、いつもと同じ時間にフクちゃんと家を出た。東西に視界のひらけた往来にでたら、珍しく街の底に靄が佇んでいる。そういえば、育った町では海が近いせいか、夏の早朝にはよく朝靄が出ていたっけ。フクちゃんを保育園に預け、駅までひとりで歩きながら、イヤフォンを耳につっこんで、シガーロスをきく。駅までの十分たらずのあいだに、靄は朝陽にぬぐわれて、駅のホームに立ったら線路のむこうがくっきりと見えた。いくつかの路線が靄で遅れているというアナウンスが流れていた。シャワーを浴びたあとのように、わけもなく新しい気持ち。
- 作者: 江国滋
- 出版社/メーカー: 旺文社
- 発売日: 1982/12
- メディア: 文庫
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