まみ めも

つむじまがりといわれます

フランス風にさようなら

火曜、おとうさんが出張がてら泊まりにくるというので、前日からおかずを用意しておく。切干し大根と油揚げと黄色人参を煮て、冷蔵庫でつめたく。ポテトサラダはぐずぐずにやわらかくしたマカロニとつぶし、ツナと胡瓜を和えておく。あとはピクルスや冷やしトマトとレタス、ズッキーニの焼きびたし。おとうさんが東京駅で焼鳥と蓮根のはさみ揚げと海苔巻きと握り鮨を買ってきてくれたので、一挙に食卓が華やぐ。こどもたちにはコーンとブロッコリーのポタージュも出す。玉子焼きもしようと思ったが、タイムアップ、ビールとジュースで乾杯。体調が冴えないので、ロング缶二本と日本酒コップ一杯でよしておいた。こどもたちはじいじとお風呂にはいって、妙ちくりんな歌を教えてもらっていた。
神戸の電車は花電車
米原通ってちんちんちん
トンネルくぐってぶうぶうぶう
こんなだったと思うが、歌いながらおでこ(こうべ)から顔のまんなか(鼻、前歯)をくだってきて、ちんちんちんのぶうぶうぶうで、最後は肛門で終わる。品はよくないが、うまいことできているなと感心する。

ブックオフで105円。ニューヨーカーに掲載の短編を常盤新平があつめたもの。
1 こわれた休暇 アルトゥーロ・ヴィヴァンテ/著
2 フランス風にさようなら アーウィン・ショー/著
3 父は闇に想う ジェローム・ワイドマン/著
4 誰かに話をしなければやりきれなかった男 ジョン・オハラ/著
5 電気椅子の甘美な死 ルドウィッグ・ベメルマンズ/著
6 肉体と悪魔 ピーター・ディ・ヴリース/著
7 不死なるもの ロバート・ヘンダースン/著
8 大きなマグノリアの木の下で アラン・シーガー/著
9 花嫁 メーヴ・ブレナン/著
10 街からの贈り物 ジョン・アプダイク/著
短編は洗練がいるからいやだ、と村上龍が書いていたけれど、たしかにどの話も気が利いている。「大きなマグノリアの木の下で」は、はじめての恋について書いたもので、青くささが今となっては微笑ましい。わたしのはじめての恋はどれだったのか、いまだによくわからない。

ぼくは彼女にかるくキスをした。火花が散らなかった。彼女はぼくの首に腕をまきつけてこなかった。スズメたちはマグノリアの木から去らなかったし、かしましくさえずりながら、車の上にハート形に群をなすこともなかった。

ほんもののキスをしたら、火花は散るし、彼女の腕はぼくの首にまきついて南京錠みたいに離れなくなるし、スズメはハートになって祝福の歌をさえずるので、これはほんものの恋ではなかったということだろう。わたしはほんもののキスをしたことがあるのでわかる。まあ、本当のところはキスに夢中でなにも見えなかったし、聞こえなかったけれど、それぐらいの奇跡は起きていたと思う。