二泊三日の軽井沢行のあいだ、鈴虫は家で留守番。いつのまにか三匹になっていたが、雄が残っているらしく、台所にひと気がしなくなると、隅っこから鳴き声がきこえていた。軽井沢にいく朝に、餌を替えてやって、帰ってきたら三匹ちゃんといたが、連休中に暑かったせいで、ちいさな虫が這いまわるようになってしまった。帰ってから一匹、そのあとまた一匹死んだ。残ったのは雌が一匹で、鳴き声はもうしない。ふと思い出してスピッツの「鈴虫を飼う」をきいてみる。
天使から10個預かって
小さなハネちょっとひろがって
草野マサムネの透明な感性にひたされる。イントロの羽をふるわせるようなギターの音色はこれまでさんざんきいておきながら気がつかなかった。世界のことをなにも知覚できていないような気になって、この鈍さのおかげでたいして傷つきもせずやってられるのだなと思う。
- 作者: 開高健
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1986/08
- メディア: ハードカバー
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家の外へ出ると、人に声をかけるのも苦痛だったし、かけられるのも苦痛だった。いつも薄弱な殻のなかに閉じこもり、破られることにおびえて、びくびくしていた。
ハスの花のひらく音からすれちがいざまの女が男にすがる台詞(かんにんして、あんた)、父の亡霊の舌打ちまで、さまざまな音にまつわるエピソードだが、どれも息苦しくなるほどに暗い。でも、この手に負えない陰気に自覚があるので、妙にぞわぞわしてやめられない。