まみ めも

つむじまがりといわれます

ふらんす物語

ふらんす物語 (新潮文庫)

ふらんす物語 (新潮文庫)

四年前、婚前旅行はイタリアで、帰路、フランスでトランスファーした飛行機がとびたったら、眼下のパリでエッフェル塔がきらきらと明滅したのが、はじめてみるエッフェル塔で、あのきらめきは、目のなかに星が入ってしまったような、そんな感動をいまも余韻している。翌年、ハネムーンでフランスにいった。わたしは新婚旅行にはフランスにいってエッフェル塔にのぼりたいという我ながら照れ臭い憧れをもっていて、そんなしょうもない夢をききいれてくれる男とその夏に結婚したんだった。エッフェル塔のみえるホテルに泊まり、エッフェル塔をながめながらショコラをかじりコーヒーを飲み、チュイルリー公園にできていた移動遊園地の観覧車や凱旋門のうえで明滅するエッフェル塔をみた。鉄の塔はいくら眺めても飽きなくて、つまらない夢がかなってなんだかとてももったいない思いをした。
ふらんす物語は、永井荷風のフランスへの思慕が炸裂した一冊で、フランスの華やかな倦怠がこれでもかとてんこ盛りのうつくしい文章でつづられている。オーヴォア、というさようならの響き、ちっともおいしくなかったレストランのお皿たち、ごみだらけの夜明けのシャンゼリゼー、それぞれに宿るフランスの軽やかな無関心さが、わたしを何度も裏切るのにかえって魅力的だったのを思い出した。