まみ めも

つむじまがりといわれます

駅前旅館

浦和に戻ってきたら、ほとんど空白の冷蔵庫が冷えていた。帰ったなりでスーパーマーケットに買い出しにいき、牛乳にヨーグルトに食パンにバナナ、とりあえずのものを買い込んだが、野菜室はあいかわらずひっそりしている。しごとの帰り、毎日の晩の献立を考えながら駅前の青物屋にはいり、イヤフォンでQueenをがんがんにききながら、なすにしめじにピーマン、冷やし中華に豆腐、ゴーヤ、かごに突っ込んでいくときの妙な高揚感といったらなくて、まさしくドンストップミーでロッキューな感じです。単なる食品の買い出しであるのに、Queenをきいていると、おそろしい自己肯定の気分が盛り上がり、いま手にしているピーマンも天啓の必然であるかのように、燦然とグリーンを放っている。

駅前旅館 (新潮文庫)

駅前旅館 (新潮文庫)

下田に携行したもう一冊は、井伏鱒二で、なんとか旅の感じを醸したくて駅前旅館というのを選ぶ。ブックオフオンラインで150円。ブックオフで105円以外の本を買うようになったのは、図書館で本を借りるようになって、書籍費を使わなくなった感覚があり、やや気が大きくなっているからなのだが、それでも150円だったりするところがどうも人間がちいさくっていけない。
ヒチローが、井伏先生の小説はロカビリーに似ているといい、鼾にも品位があり、うららかで、のどかだと書いていたが、小説は読めるからよいとして、品位のあるうららかでのどかな鼾というのは、ちょっと聴いてみたかった。それにしても、井伏鱒二の脱力感のさじ加減はよかった。井伏鱒二の書くものは、いつだって読んだそばから忘れてしまう、そして、忘れてしまうことが全然惜しくない、その軽さが心地よい。