石浦はひげを剃ったあとで黒星がたてこんでしまった。スポーツ新聞の記事で、石浦姓が一向一揆で離散したというのが出ていた。その石浦の親戚筋というのが、ちいさい頃にお習字に通っていたお寺さんなのだった。少し独特な字を書くごぼさん（いなかではお坊さんのことをごぼさんという）で、今思えば深いいい声をしていたが、たばこをぷかぷか吸うのでいつも煙と墨の匂いがないまぜになっていた。習字はうまくないまま終わってしまったけれど、そのお寺さんで夏休みに正信偈を唱和したことや花祭りに飲んだ甘いお茶とカンダタのお話のアニメが、畳についた墨汁のあとのように点々と幼少期の思い出になっている。そんなこともあって、石浦の活躍はうれしいのだった。
フクちゃんは大好きな鶴竜が白鵬とあたる日には、どきどきして見てられない様子で両手をあわせて「おねがい、勝って」と泣きそうにしていたので、勝ったことがうれしくて、帰りの遅い宿氏に覚えたての字で手紙を書いた。
よだんたっかにうほくはねがうゆりくか
と右から左へ読めるような読めないようなあやうい筆跡で、思いの詰まったいい手紙だ。
海軍士官養成学校を舞台に、暗い過去を持つ青年が過酷な訓練に耐え抜いて、本物の人間愛にめざめるまでを描いた青春映画の名作。主人公の青年ザック役のリチャード・ギアと、彼を愛する町工場の娘ポーラ役のデブラ・ウィンガーの熱演、さわやかなラストシーン、印象的な主題歌が観客の支持を受け、日本でも大ヒットした。軍曹役のルイス・ゴセット・ジュニアがアカデミー助演男優賞を受賞したほか、歌曲賞を受賞。
リチャード・ギアはこのとき三十代。若いけれども、どうしても「HACHI！」と呼ばっている姿が浮かんできてしまう。そして、やっぱりマッチョな男は苦手なので、みていてげんなりした。あんな風にお姫さま抱っこされるところを想像したらさぶいぼ。
