まみ めも

つむじまがりといわれます

現代生活独習ノート

今年も、駅前の八百屋のレジがハッピーバースデーで誕生日を祝ってくれた。レジうちのご婦人が、お誕生日ですね、と淡々と対応し、絶妙ないたたまれなさを味わうところも含めて恒例となりつつある。家族が祝ってくれるというので、焼き肉屋にいき、ビールをたくさん飲んだ。

遊歩道の梅は1月10日にもう咲いていた。一番寒さがしんどい季節に咲いて、近くを通る瞬間ふわっとにおい、はなやかな気持ちにすこしだけ憂鬱がまじる。

卜。

偶然録画していた興味のない番組、冷蔵庫内の陣地争い、貧弱な食事ばかりのSNS画面…。キラキラしていなくても冴えない日常は、案外愛しく、悪くない。“今”が詰まった8つの物語。

レコーダー定置網漁

台所の停戦

現代生活手帖

牢名主

粗食インスタグラム

フェリシティの面接

メダカと猫と密室

イン・ザ・シティ

津村記久子にしかたどりつけない絶妙なリアルワールド。

イン・マイ・ライフ

村上春樹も木下龍也もおめでとうだけれど、わたしもおめでとうだった。ふくちゃんがいなげやで買ったヒアシンスを、ふみちゃんは折り紙を、げんちゃんはふみちゃんに折らせた折り紙を、せいちゃんはおめでとうのメッセージを遠くからくれた。

せいちゃんは結局冬休みにはこちらに戻らず、実家にとどまっている。新聞のコラムを書き写したり、図書館で本を借りたり、畑仕事を手伝ったりしているらしい。毎日電話できょうのコラムについて教えてくれる。

卜。

年をとるって、かくも愉しく忙しい。スタイリストとして『アンアン』『オリーブ』『クロワッサン』の草創期を駆け抜けた半生と、熊本ではじめた62歳からの仕事と暮らしについて綴る。

宇野千代の隠れ家が気になる。

約束した街

帰省先で家族がインフルエンザになりやれやれと思っていたら年明けに地震があり、なんともいえないお正月になってしまった。夜じゅうずっと、ヘリのとぶ音がしていて、非常事態なのだという事実がせまってくる。さいたまに戻る前日の深夜に胃腸炎になり、トイレにこもってがたがた震えているとき、がれきのしたにいる人やその家族のことを思う。せいちゃんが調子をくずし、予定していた朝の新幹線にいっしょにのれず、ひとりおいてきた。電話口で戻りたくないというのを、とんぼ返りで迎えにいく。生きているというのは、ときどきとても心細い。

卜。

世の中のはみだし者の幼馴染3人は、15年後の再会を約束する。かつてやり残した「宿題」を終わらせるために…。「ある罪」によって繫がった仲間たちを描いた慟哭の長編ミステリー。

年明けにひらいた本は、阪神淡路大震災のときに中学校を卒業した三人をめぐる話。あの震災のときは、車庫のシャッターがかたかたと揺れていた。オレンジジュースが飲みたくなった。

ぷくぷく、お肉

あとから合流したふくちゃんが29日の夕方から熱を出し頭痛をうったえ、カロナールを飲ませたけれど次の日の朝になってもしんどがるので当番医に連絡をしたら診察まで二時間半はかかるという。受付だけすませて呼び出しまで四時間、診察を終えて薬をもらったら七時間たって真っ暗になっていた。インフルエンザで、薬をもらうころには峠は越えたらしかった。帰って診察待ちの間に煮込まれたおしなべて茶色のおでんを食べた。

卜。

すき焼き、ステーキ、焼肉、ビーフシチュー、串カツ、焼きとり…。開高健村上春樹池波正太郎向田邦子佐藤愛子町田康吉本隆明ら、古今の作家たちが綴る「肉」にまつわる随筆集。全32篇を収録。

ありが豚 角田 光代

スキヤキスキスキ 阿川 佐和子

ラクなりたかったら独身だ、スキヤキだ 開高 健

牛鍋からすき焼へ 古川 緑波

すき焼きの記憶-「自作の中の味」という課題で- 山田 太一

すき焼きが好き 村上 春樹

ビフテキ委員会 赤瀬川 原平

世界一のステーキ 馳 星周

肉それぞれの表情 神吉 拓郎

とんかつとカツレツ 池波 正太郎

味噌カツ 向田 邦子

冬でも夏でも、たんてきに、足が冷たいんである 川上 未映子

ビフテキとカツレツ 阿川 弘之

昔のトリ 佐藤 愛子

焼きトリ 内館 牧子

鴨よ! 菊地 成孔

焼肉 久住 昌之

夕食 肉は「血湧き肉躍らせつつ」 井上 荒野

日本風焼肉ブームに火がついた 邱 永漢

ビーフ・シチュー 檀 一雄

血よ、したたれ! 伊丹 十三

梅田で串カツ 町田 康

牛カツ豚カツ豆腐 内田 百間

豚肉生姜焼きの一途 東海林 さだお

長崎の豚の角煮 吉田 健一

バスティーユの豚 四方田 犬彦

豚ロース鍋のこと 吉本 隆明

豚のフルコース 島田 雅彦

ギャートルズ 園山 俊二

獣の味 平松 洋子

韃靼ステーキ 三宅 艶子

肉がなけりゃ 色川 武大

あたらしい仕事に無職にひきこもり、多額のローン、役員くじ引きで本命をひいてしまうなどいろいろあった一年が終わる。だめじゃない男はだめだと思っていた自分がもしやだめだったのではと思いそうになることも多々あったけれど、万里江のようにひょっとするとだめな男が原動力なのかもしれない(嫌だけれど現実)。石川さゆりダメ男数え唄「だめな男よ背中に乗りな」「どんとこいこい」でやっていくか。お昼は天ぷらそば、夜はすき焼き、肉は二キロ。

私の家では何も起こらない

仕事を早じまいしてげんちゃんのお迎えをし、荷物をかかえてせいちゃんとふみちゃんとげんちゃんと四人でかがやきに乗っていなかに帰ってきた。ビールとチーザとおにぎりとおいなりさんとスナックパンとシュトーレンとスイートポテトとみかんと、しこたま持ってきたつもりなのに、40分後くらいには手持ちぶさたになっていて、ちょっとした怪奇現象だった。一週間前に降った雪は路肩に残るのみで、翌朝はめずらしく晴れて白山がよく見えた。かたくなったとけ残りの雪でもうれしいらしく、ふみちゃんがうさぎの雪だるまをこさえていた。

卜。

小さな丘に佇む古い洋館。この家でひっそりと暮らす女主人の許に、本物の幽霊屋敷を探しているという男が訪れた。男は館に残された、かつての住人たちの痕跡を辿り始め…。驚愕のラストが待つ、恐怖と叙情のクロニクル。

私の家では何も起こらない

私は風の音に耳を澄ます

我々は失敗しつつある

あたしたちは互いの影を踏む

僕の可愛いお気に入り

奴らは夜に這ってくる

素敵なあなた

俺と彼らと彼女たち

私の家へようこそ

附記・われらの時代

生々しさと恐怖が絶妙にうつくしく冷静にブレンドされていて、怖い。

隣のずこずこ

しばらく前に、クリスマスの贈り物にこどもたちに一冊ずつ本を選ぶついでに、こどもの数と同じだけの本をレジに持っていき、ブックサンタをお願いしてきた。知らない誰かに届きますように。

クリスマスはいつものビスケットケーキを用意して、もも肉1.5キロをフライドチキンにした。もうあとは勘弁してくれという気持ち。

卜。

中学3年生のはじめが住む町に突如、伝説の<あいつ>と謎の美女・あかりさんがやって来た。今日から1カ月後に<あいつ>は町のすべてを「なかったこと」にしてしまうのだという。はじめたちは計画阻止にのりだすが…。

タイトルでポップなやつかと思ったら、ポップはポップなのかもしれないがずどんとおも怖だった。「きみがいないことはきみがいることだなぁ」というサニーデイ・サービスの歌をロマンチックなしの小説にしたら、こうなるのかも。ロマンチックほしいです。

とりあえずお湯わかせ

かまぼこの売り場がでかくなり、値段がえげつなく高いのを見ると歳の瀬を実感する。

忘年会にいく家族を送り出し、人の多いところには混じりたくないせいちゃんとふたりではま寿司。10日ぶりに外に出たせいちゃんは、人とすれ違うたびに背後にすっと隠れて気配をひそめていてさながらスパイの風情だったけれど、あさりの酒蒸しの汁を飲み干すころには周りのことは気にならない様子だった。

卜。

はじめての育児、コロナ禍。閉じこもる中で徐々に気が付く、世の中の理不尽や分断。食と料理を通して、2018年から2022年を記録した、小説家・柚木麻子のエッセイ。『きょうの料理ビギナーズ』連載他を単行本化。

ちょっとやり過ぎ感のある柚木麻子の日々にどきどきしてしまったけれど、ご本人もなんでこのころこんなに必死にがんばっていたのかと振り返っていた。必死こいてる当時は筆致はあかるいけれど自己評価が低い。こんなのビギナーむけの雑誌にのってたら泣いちゃう。